『ナム・フォンの風』(2003年)ダイアナ・キッド作 もりうちすみこ訳
あかね・ブックライブラリー
台風すごい風でした!というわけで、風つながりで今日の一冊はコチラ↑
ナム・フォンとは、ベトナム語で、『香り高い南風』という意味。
1975年のベトナム戦争終わる前後にボート・ピーポルと呼ばれた難民たちが発生しました。このお話の主人公ナム・フォンもそんなボート・ピープルのうちの一人で、オーストラリアにやってきます。作者のダイアナ・キッドさんは、移民の子どもたちに英語を教えたことが影響して、この物語も生まれたようです。小学校高学年からとありますが、100頁くらい、字も大きめで、主人公の語りなので読みやすい。
■ 本当にツライと涙も出ない
この物語の主人公ナム・フォンは、移民先のオーストラリアでクラスメイトにどんなに話しかけられても、しゃべらないんです。笑いも泣きもしない。英語が理解できないわけではなく、心の中では答えてるのです。で、この原書のタイトルがONION TEARS↓
ナム・フォンはベトナム料理屋さんで住み込みで働いているのですが、玉ねぎ(ONION)を大量に毎日切るときには、涙(TEARS)が滝のようにドバドバ出るんです。でも、悲しいこと思い出したり、思いっきり泣きたいときもあるのに、そんなときは涙が出てこないんですね。
人って本当にツライ経験をすると、どこかで感覚を閉じてしまうことがある。泣きたいのに泣けない。再びナム・フォンが泣けるようになったとき、ナム・フォンは同時にしゃべれるようになります。ナム・フォンの場合は、突破口となったのは学校の先生でしたが、この先生のさりげなさがまたよかったんですよねえ。ナム・フォンが自分から心を開くまで待つ。
■ 日本人だからこそ読みたい
日本には、難民も来ないし、移民も欧米諸国と比較すると少ない。だからこそ、こういうことがあるんだ、ということを物語で知っておきたいなあと思います。絶版ですが、学校図書には置いてほしい一冊。
ただ、個人的に一つ残念だったのは、ナム・フォンの心の中の語り口調。ちょっとお上品すぎるというか、夢見る乙女口調なのです。そう、村岡花子訳の『赤毛のアン』を読んでるかのよう。
○○なの。○○かしら?○○わ。○○よ。
・・・伝わるでしょうか?ナム・フォンは貧しい田舎の出なので、どちらかというと口調は『大草原の小さな家』のローラのほうのイメージなんだけどなあ。もしかしたら、そういう口調は、今の子には読みづらいかもしれません。読んだ子に感想聞いてみたいな。
とはいえ、ナム・フォンが涙を取り戻し、声に出して言葉を言えるようになるところは感動的です。世界には、色んな人たちがいること、知っておきたいです。