皮膚呼吸しか知らない蛙

アスペルガー症候群当事者が、2次障害に溺れることもありながら社会に適応していく道のりを綴っていきます。

抗てんかん薬の易怒性抑制への応用

2008-11-22 00:01:15 | アスペルガー症候群

高次脳機能障害患者やてんかん患者、双極性障害患者に主に使用されているバルプロ酸ナトリウムという薬剤が存在します。

バルプロ酸ナトリウム おくすり110番 WEBサイト


アスペルガー障害における「きれやすい」という情動(易怒性)に悩みを持っている方がいらっしゃるかも知れません(<アスペルガー障害≠きれやすい>ですが、付随する情動として傾向を持つ方はいらっしゃるかと思います)。

脳波は通常目を閉じている時、前頭葉ではβ波、後頭部ではα波が支配的であり、目を開けると後頭部のα波がβ波に変わると言われています。ところが、アスペルガー障害の症例において、後頭部に確認される脳波がβ波だけである被験者が確認されているそうです
α波は「おちつき」、β波は「興奮」と呼ばれるように、目を閉じている時にもβ波出ている状態とは、常に脳が活動している状態に近いと予想されます。
たまに「アスペルガー障害者はリラックス状態を自己調整できない」という話を耳にしたりしますが、ワタシ自身も実は“リラックスの仕方”をこの年になって勉強中です。

脳の酸素濃度を低下させ、器官(視覚)に光源刺激や外的ストレスを与えると、前頭葉の脳波はβ周波数帯優位となる学術的検証で述べられていたりもします。
忙しく活動している時、刺激により脳は興奮状態にあり、睡眠時においても海馬・脳梁が活動していると、後頭葉の脳波がβ周波数帯優位となり、眠っていても常に興奮状態であるという厳しいストレスに晒されることになります。

海馬は、新皮質の連合野と密接に連絡を取りながら、記憶の働きを担います。
「海馬が常に活動状態にある」、というのはアスペルガー障害者の膨大な記憶量にも関連しているかも知れないですね。
また海馬に隣接する扁桃核は、快・不快などの情動に関係する働きをします。

抗てんかん薬には、脳波の亢進を防止し、感情をコントロールしている偏桃体の脳波の亢進を防止する効果が近年認められているそうです。


ここでひとつの論文をご紹介します。

「高次脳機能障害回復期の情動障害に対するバルプロ酸ナトリウムの有用性」<Jpn J Rehabil Med 2008 ; 45 : 46-51  菊川素規,菊川玲子>

要旨:納所中や東部外傷後に高次脳機能障害を後遺している患者の中には、回復期リハビリテーション(以下回復期リハ)開始時に、情動障害のためリハ治療が困難なケースがある。パルブロ酸ナトリウム(以下VPA)は精神科領域では抗てんかん薬としてだけでなく気分安定剤として用いられている。情動障害を抑制しリハ効果を高めるため、VPAを使用し、その有用性を検討した。山口リハビリテーション病院回復期リハ病棟(60棟)の2006年8月~2007年4月の新規入院患者のうち情動障害コントロールの目的で7例にVPAを処方した。情動障害の効果判定にはJSS-Eを用い、リハ効果判定にはBIを用いた。JSS-E、BIともに、処方前に比べ投薬語優位にスコアが改善し、回復期のリハにおいて、情動を改善しリハ効果を高めるためにVPAが有効であることが示された。

抑うつ、不安・いらいら・落ち着きのなさ、易怒性(脱抑制)、不眠などの症状の程度に応じてVPAを200~800mg経口投与し、3ヶ月以上の経過観察を実施。
VPA投与語4週、8週でJSS-Eスコアが有意に改善していることが明らかとなった。
回復期のリハにおいて、情動障害の改善にはVPAが有効であること、またVPA投与後4週以内と早期に情動障害は改善することが示された。
VPA投与群の中には、VPA単独例だけでなく、他の抗精神病薬併用例も含まれており、抗精神病薬の情動障害に対する効果を考慮しなければならないが、VPA投与群vsコントロール群において、投与後4週、8週ともVPA投与群のほうが有意に改善しているという結果は、情動障害に対しVPAが効果的であることを支持している。
邦外ではリハ領域で情動障害のコントロールを目的にVPAを使用し、効果のあることが報告されている。
(Wroblewski BA, Joseph AB, Kupfer J, Kalliel K : Effectiveness of valproic acid on destructive and aggressive behaviours in patients with acquired brain injury. Brain Inj 1997 ; 11 : 37-47)
(Chatham Showalter PE, Netsky Kimmel D : Agitated symptom response to divalproex following acute brain injury. J Neuropsychiatry Clin Neurosci 2000 ; 12 : 395-397)

脳器質的障害の予後・回復期における情動障害への投与の有効性を検証する論文ですが、アスペルガー障害(脳・神経中枢圏における情動中枢機構の障害)に関しても、易怒性をはじめとする情動抑制に一定の効果が見込める可能性を感じました。

てんかんや双極性障害への投薬に目を向けられがちだと思いますが、ここに挙げさせて頂いた論文の他にも、脳器質性外傷患者の情動障害への有効性が語られる論文もいくつかありましたし、脳波のメカニズム上からも、「易怒性」に悩む方にとっては1つの選択肢になるかもしれないです。



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