道草あつめ

日常思いついた由無し事を、気ままに拾い集めています。

車窓

2007-04-02 20:39:14 | 旅中
砂丘なるものが見たくなって、
青春18切符を使って鳥取まで行ってきた。
朝5時に新宿を出て、2日後の深夜に帰宅したのだが、
そのうち電車に乗っていたのが30時間強、
実に半分近くの時間を車上で過ごした旅であった。

今回は鳥取と京都で一泊ずつしたのだが、
その間に行った観光名所は、
砂丘・二条城・比叡山の3つのみ。
移動ばかりで、あまり名所を見ている暇がなかった。
そして、最大の目的であった鳥取砂丘も、
雨がひどくて、実質30分ほどで引き揚げてしまった。

こう言うと移動ばかりで実のない旅行のように聞こえるが、
それは違う。
電車で過ごす時間も、また旅行の中の楽しい体験である。
本を読むもよし、寝るもよし、人々を観察するもよし。
席を譲ればそこから会話が始まって、
平凡に見えるおばあさんの意外な過去を聞かされたりもする。

そして、何より、外の景色を見るのが面白い。
都市から田舎へ、山を抜けて川を越え、
狭い国土に様々な町や地形が詰まった日本を列車で行けば、
景色は次々と変わる。
湖や川を見て、今どこにいるのかを推理してみたり、
山間の盆地の集落を見て、人々の暮らしを想像してみたり、
そんなことをしていれば、時の経つのも忘れてしまう。


2日目に、浜坂で電車待ちのついでに駅前のうどん屋に入って、
手早く昼食を済ませようとした。
まだ少し早い時間だったので、客は我々だけであった。
注文して少しして、店主がうどんを作って持ってきたのだが、
その時、「どこに行くの?」と話しかけてきた。
「昨日鳥取に泊まって、今日は京都に行きます」と応えると、
そこから、浜坂の温泉や浜辺についての話が始まった。
一方的に話し続けるのではなく、私との対話の中で自然に、
しかし、ロマンチックに、山陰の美しさを語った。
決して特別な内容はなかったが、
人をして浜坂を訪れたい気持ちにさせる話であった。
もっと店主と話をしたかったが、乗り継ぎの電車まで時間がなく、
相棒が食べ終わったらすぐに店を出た。

そのまま豊岡往きの電車に乗ったのだが、
店主の言葉を思い出した。
「上り電車に乗るならば、左の席にしなさい。
 海が見えるようにしなさい」
その言葉に従って、左側の席にかけて、
窓の外を眺めていた。
すると、
人家の向こう側に、美しい砂浜が現れた。
岩と緑に囲まれて、小さくて白い砂浜が見える。
すぐにトンネルに入ってしまって見えなくなるが、
山を抜けると、また美しい砂浜が現れる。
それもすぐに見えなくなるが、
山を抜けると、次の砂浜が見えてくる。
山を越える度に、次々と砂浜が現れてくる。
どれも全く違う砂浜でありながら、全て美しい。
なるほど、店主が勧めるわけである。
海が遠くなるまで、しばらく窓に貼り付いて、
外の景色の変化に見入っていた。


「車窓」、実に旅情あふれる言葉である。
旅に出る時は、時間に追われることなく、
車窓を大事にしたいものである。


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