徒然なるまゝによしなしごとを書きつくる

旧タイトル めざせ、ブータン

南海トラフ地震 被害想定に関する考察

2013年03月20日 | 物理

昨日、新聞一面に南海トラフ地震の被害想定がデカデカと載っていた。なんと、被災者が6800万人!日本人の半数以上が被災するというとんでもない被害を想定している。

 

 

しかし正直言って、ホンマですか?という気がする。なぜなら前回の海溝型巨大地震、つまり昭和東南海地震の被害記録(下表)を見ると桁が違いすぎるからだ。

この地震は太平洋戦争中の1944年12月7日に起っていてM7.9と推定されている。戦時中の事で軍部はこの被害を隠そうとして過小評価の面はあるが(本データは1977年飯田による)それにしても今回の被害想定と違いすぎる。

よくよく見ると、今回の被害想定はM9.1を算出の条件としている。M7.9とM9.1だと地震エネルギーとしては63倍の違いがある。こうなると、今回の被害想定もあながち間違いとは言えない。おそらく、3.11地震がM9.0だったので、それを超えるM9.1で被害想定をしたのでしょう。

地震はいつどこで起きても不思議ではない、と言うのが常識だが、実は海溝型地震にはその常識は通用しない。海溝型地震はそのメカニズムから周期的に起ることがわかっている。歴史上も684年の白鳳地震の記録以降、約120年周期で必ず起っているのです。

前回の昭和東南海地震は1944年、その前は1854年の安政東海・南海地震だから、その間は90年しかなく、よって昭和東南海地震は比較的規模が小さかったといわれている。直近数万年間でマントル対流によるプレートの移動速度は一定と考えられるので地殻バネに蓄えられるエネルギーは時間に一次で正比例する。つまり、地震の規模は前回の地震からの年数によって決まり、間隔が長いほど大きな地震となると言う事です。

さて、前回は1944年に起ったわけだから、平均値でいうと次は120年後の2064年に起る確率が最も高い、今から51年後だ。個人的に言えば恐らく私自身はとうに死んでいなくなっているだろう。しかし、自然現象にはばらつきガある。この地震の周期ばらつきはσ=20程度なので3σを取ると明日起ることも考えられる。ただし、先に述べたとおりそのメカニズムから期間が短い場合は蓄積エネルギーは小さい。明日東南海地震が起ったとしても線香花火並みの地震にしかならない。逆に言うと今回の被害想定のM9.1のエネルギーが蓄積するには平均周期を上回る期間が必要なので、少なくとも今後50年間でこの想定する被害の地震が起る確率はほぼ無い、と言って良いだろう。

ただ、駿河湾沿岸にお住まいの方には注意が必要だ。実は前回の東南海地震では東海部分が割れていないのだ。1980年代に東海地震が今にも起ると騒いでいたのを覚えている方は多いと思う。それはこの割れ残りを問題にしていたからだ。しかし、歴史上、東海地震が単独で起った記録は無く、必ず東南海地震と連動していることがわかっている。という事は、次回の東南海地震に東海地震が連動すれば二回分の溜まったエネルギーを吐き出すことになり相当の揺れになるだろう。名古屋は前回やられているので次回は大した事はないが静岡は大変になる、と言うのが当方の勝手な見解です。

もうひとつ今回の被害想定で気になる点がある。前回の地震では無く、今回の地震で初めて問題になるもの。 原発への影響を除外している点である。福島の例でわかったとおり、原発に事故があると、続く100年間に影響を与えるようなダメージを残す。とにかく、海溝型地震は必ず起るしその為の被害はある程度仕方が無い。しかし、それによる原発事故はなんとしてでも防がなくてはならない。政府には巨大堤防を作るなどとゼネコンを喜ばすだけの無駄な公共投資をするのではなく、原発対策をきっちりやっていただきたいものだ。特に直撃をくらう浜岡原発の処理は最優先の課題だろう。