「邦画復権」で浮上する映画業界、話題作品が業績押し上げ
水野 文也記者
「おくりびと」が米アカデミー賞外国語映画賞を受賞し、このところ脚光が当たる映画業界の収益浮上が期待されている。1990年代まで長く退潮傾向をたどってきた邦画の配給収入が洋画を上回るようになった「邦画復権」が原動力となっているとの指摘が出ている。
今年度も邦画の話題作が目白押しで、業績をさらに押し上げるとの期待感が市場に広がっている。
<GWも活況だった映画興行>
ゴールデン・ウイーク期間中、国内映画各社の興行は順調に推移している。映画の興行収入は景気に左右されにくく、作品の良し悪しに大きく左右される。さらに配給本数が異なるため、前年とは単純に比較できないものの、各社の映像事業関係者、広報担当者は口をそろえて好調と語っていた。
たとえば東宝<9602.T>が4月18日に公開した「名探偵コナン・漆黒の追跡者」は、昨年同時期に公開した前作との比較で44%の観客動員数を記録。今回の作品は第13作となるが、同シリーズで過去最高の動員となる勢いという。昨年10月の公開作の続編となる「クローズZERO・II」も動員数は3割増のペースとなっている。
1日に「GOWMON」を公開し、6日までに57万人を動員、7億0800万円の興行収入を上げた松竹<9601.T>では「5連休中、2日と3日は出足が悪かったが、天候が崩れた4日以降は観客数が上向いた」(同社の営業事業関係者)という。
前年のゴールデン・ウイーク期間中に「相棒」が大ヒットした東映<9605.T>も「昨年の勢いは無いながら『おっぱいバレー』が健闘し観客数を増やした」(同社の広報担当者)とコメントしていた。
<話題作の公開続く>
今後も話題作品が続々と登場する。松竹では5月16日に「60歳のラブレター」が公開されるほか、8月ロードショーの「HACHI・約束の犬」に期待がかかる。さらに、年末には人気の「釣りバカ日誌」シリーズの最終作となる「釣りバカ日誌20・ファイナル」を公開予定。とりわけ「60歳のラブレター」は「おくりびと」に続く同社の期待作品という。
東宝では5月9日の「余命1ヶ月の花嫁」や同30日の「ROOKIES─卒業─」のほか、10月公開予定の「沈まぬ太陽」などが控え、少し早いが来期は人気シリーズ「踊る大捜査線」の新作が公開される予定だ。東映は6月20日の「剱(つるぎ)岳・点の記」などが期待作品となっている。
実際、興行の好調さが足元の収益に結びつく例が出ている。「おくりびと」効果が大きい松竹は、2010年2月期の連結営業利益が24億円(前年比52.4%増)と大幅増益を見込む。「おくりびと」は6日時点で61億8300万円の興行収入を上げているが「このうち6割が前期までの数字。『おくりびと』は今期、コストがかからない形で収益に貢献する。当初は(興行収入が)10億円行かない作品だと思っていた」(同社の油谷昇取締役)という。
他方、東宝の10年2月期は営業29.9%減益の見通し。会社側によると「前期はヒット作品に恵まれた。そうした意味では、通常に戻る形となる」(同社の浦井敏之取締役)という。昨年は「崖の上のポニョ」(同社集計の興行収入115億円)「花より男子・ファイナル」(同77億5000万円)などがあり、その反動を見通しに織り込んだ格好となっている。
ただ、これについて「同社は例年、期初の営業利益計画を保守的に発表する傾向がある」(銀行系証券アナリスト)との指摘もあった。実際、東宝の広報担当者は「(今期の業績見通しは)相当堅めにみた数字」とした上で「『ROOKIES─卒業─』の前売りは昨年大ヒットとなった『花より男子・ファイナル』よりも好調で、興行成績も上回る可能性が出てきた」と話す。
こうした各社の収益を支えている要因として「邦画の復権」が挙げられる。1960年代から長く低落傾向にあった邦画は、90年代から徐々に上向きに転じ、今日ではヒット作品が目立つようになったが、リスクを分散する製作委員会方式の広がりが強く影響しているとの見方が有力だ。
東宝の広報担当者は「製作委員会方式では、見たいと動機づけられる映画を企画段階から積み上げ、ていねいに製作する。これが日本の映画マーケットに沿う」と語っていた。松竹では良い作品を厳選して製作本数を絞り込むなど、企業側の努力も目を引く。
また「邦画そのものが見直されているだけではなく、ハリウッド映画が退潮していることも邦画の好調の要因だ。古くからの洋画ファンの足が遠のいているような感じがする」(東映の広報担当者)との声もある。
ハリウッド映画の不振について、松竹の油谷取締役は「資金の利回り優先という経済のグローバル化傾向も、関係しているようだ」と分析していた。現在、ハリウッド映画にはファンド資金の流入が目立つが、そこでは利回りが追求されるためにわかりやすい映像が求められ、CG(コンピュータグラフィック)が多用されているという。油谷氏は「その結果、生じたのは表現のバブルで、飽きられることになる。ある意味で『おくりびと』の受賞は、時代の転換を象徴しているのではないか。今後も地道に作品を作り上げることが重要になりそうだ」と語っていた。
2. 京急「駅メロ」CD好発進、発売1か月半で1万枚
京急電鉄(本社・東京)の駅のホームで流れている駅メロディーを集めたCDが、同社や発売元の予想を超える評判を呼んでおり、発売開始から約1か月半で1万枚以上が売れている。
駅メロは、通勤や通学で駅を利用する人にとって身近な音楽の一つだけに、鉄道マニアの枠を超えて人気が広がっているようだ。
このCDは「京急駅メロディ オリジナル」(1500円)で、3月18日に販売が始まった。京急は昨年以降、一般公募で決めた「上を向いて歩こう」「夢で逢えたら」などの駅メロを計17駅で流しており、CDには、17駅で流れる30曲を収録した。列車がカーブを曲がる時に発する「曲線通過音」などの“効果音”も収録。「ドレミファ……」と音階を踏んでいるように聞こえる、ドイツ製制御装置が発する電車の起動音は、同CDの「目玉」の一つという。
発売元の「ユニバーサルミュージック」(東京)は当初、マニア向けとして700枚の出荷でスタートした。ところが、品切れとなる売店が続出したほか、インターネットでも次々と売れたため増産を開始。京急も期間限定で、各駅で駅メロを携帯電話にダウンロードできるサービスを始めた。
品川駅の売店店員(61)によると、「鉄道ファンの若い男性だけではなく、年配の女性も買っていく。子供が親に頼んで買ってもらうことも多い」という。
ユニバーサルミュージックでCDの企画を担当する渡部清隆さん(43)は、「(発売当初は)地区が限られた一私鉄のCDという認識だった。短期間でここまで売れるとは」と舌を巻き、「鉄道ファンが低年齢層や女性にも広がっているのでは」と分析する。
駅メロがCDとして大々的に売り出されたのは、「テイチクエンタテインメント」(東京)が2004年3月に発売した「JR東日本 駅発車メロディーオリジナル音源集」で、これまでに5万枚超を売り上げた。05年6月に発売した第2弾の駅メロCDの売り上げも、4万枚を超えた。CDを手がける同社の担当者は「普段聞き慣れている人が親近感を覚えて手にしてくれているのではないか」とみる。
駅メロは、視覚障害者の間でも根強い人気だ。
視覚障害を持つ約50人の高校生が通う都立文京盲学校の沢田晋校長によると、「駅メロに癒やされる生徒も多いようだ。駅メロを録音している生徒もいる」という。全盲の三段跳び選手で、バイオリニストとしてデビューを果たした白井崇陽さん(25)も駅メロファンの一人で、「駅や路線ごとに音楽が違うのはすごく役立つ」と話す。駅メロ制作を手がける音源制作会社「スイッチ」(東京)では、白井さんの演奏を生かした駅メロディーを新たに作曲することも検討している。
◆駅メロディー=電車の接近や、発車を知らせるベルの代わりに流している音楽。首都圏での広がりのきっかけは、JR東日本が1989年、国鉄民営化後のイメージ刷新のため、新宿駅と渋谷駅に導入した時とされる。同社の駅メロディーが流れる目覚まし時計といった関連商品も人気。
水野 文也記者
「おくりびと」が米アカデミー賞外国語映画賞を受賞し、このところ脚光が当たる映画業界の収益浮上が期待されている。1990年代まで長く退潮傾向をたどってきた邦画の配給収入が洋画を上回るようになった「邦画復権」が原動力となっているとの指摘が出ている。
今年度も邦画の話題作が目白押しで、業績をさらに押し上げるとの期待感が市場に広がっている。
<GWも活況だった映画興行>
ゴールデン・ウイーク期間中、国内映画各社の興行は順調に推移している。映画の興行収入は景気に左右されにくく、作品の良し悪しに大きく左右される。さらに配給本数が異なるため、前年とは単純に比較できないものの、各社の映像事業関係者、広報担当者は口をそろえて好調と語っていた。
たとえば東宝<9602.T>が4月18日に公開した「名探偵コナン・漆黒の追跡者」は、昨年同時期に公開した前作との比較で44%の観客動員数を記録。今回の作品は第13作となるが、同シリーズで過去最高の動員となる勢いという。昨年10月の公開作の続編となる「クローズZERO・II」も動員数は3割増のペースとなっている。
1日に「GOWMON」を公開し、6日までに57万人を動員、7億0800万円の興行収入を上げた松竹<9601.T>では「5連休中、2日と3日は出足が悪かったが、天候が崩れた4日以降は観客数が上向いた」(同社の営業事業関係者)という。
前年のゴールデン・ウイーク期間中に「相棒」が大ヒットした東映<9605.T>も「昨年の勢いは無いながら『おっぱいバレー』が健闘し観客数を増やした」(同社の広報担当者)とコメントしていた。
<話題作の公開続く>
今後も話題作品が続々と登場する。松竹では5月16日に「60歳のラブレター」が公開されるほか、8月ロードショーの「HACHI・約束の犬」に期待がかかる。さらに、年末には人気の「釣りバカ日誌」シリーズの最終作となる「釣りバカ日誌20・ファイナル」を公開予定。とりわけ「60歳のラブレター」は「おくりびと」に続く同社の期待作品という。
東宝では5月9日の「余命1ヶ月の花嫁」や同30日の「ROOKIES─卒業─」のほか、10月公開予定の「沈まぬ太陽」などが控え、少し早いが来期は人気シリーズ「踊る大捜査線」の新作が公開される予定だ。東映は6月20日の「剱(つるぎ)岳・点の記」などが期待作品となっている。
実際、興行の好調さが足元の収益に結びつく例が出ている。「おくりびと」効果が大きい松竹は、2010年2月期の連結営業利益が24億円(前年比52.4%増)と大幅増益を見込む。「おくりびと」は6日時点で61億8300万円の興行収入を上げているが「このうち6割が前期までの数字。『おくりびと』は今期、コストがかからない形で収益に貢献する。当初は(興行収入が)10億円行かない作品だと思っていた」(同社の油谷昇取締役)という。
他方、東宝の10年2月期は営業29.9%減益の見通し。会社側によると「前期はヒット作品に恵まれた。そうした意味では、通常に戻る形となる」(同社の浦井敏之取締役)という。昨年は「崖の上のポニョ」(同社集計の興行収入115億円)「花より男子・ファイナル」(同77億5000万円)などがあり、その反動を見通しに織り込んだ格好となっている。
ただ、これについて「同社は例年、期初の営業利益計画を保守的に発表する傾向がある」(銀行系証券アナリスト)との指摘もあった。実際、東宝の広報担当者は「(今期の業績見通しは)相当堅めにみた数字」とした上で「『ROOKIES─卒業─』の前売りは昨年大ヒットとなった『花より男子・ファイナル』よりも好調で、興行成績も上回る可能性が出てきた」と話す。
こうした各社の収益を支えている要因として「邦画の復権」が挙げられる。1960年代から長く低落傾向にあった邦画は、90年代から徐々に上向きに転じ、今日ではヒット作品が目立つようになったが、リスクを分散する製作委員会方式の広がりが強く影響しているとの見方が有力だ。
東宝の広報担当者は「製作委員会方式では、見たいと動機づけられる映画を企画段階から積み上げ、ていねいに製作する。これが日本の映画マーケットに沿う」と語っていた。松竹では良い作品を厳選して製作本数を絞り込むなど、企業側の努力も目を引く。
また「邦画そのものが見直されているだけではなく、ハリウッド映画が退潮していることも邦画の好調の要因だ。古くからの洋画ファンの足が遠のいているような感じがする」(東映の広報担当者)との声もある。
ハリウッド映画の不振について、松竹の油谷取締役は「資金の利回り優先という経済のグローバル化傾向も、関係しているようだ」と分析していた。現在、ハリウッド映画にはファンド資金の流入が目立つが、そこでは利回りが追求されるためにわかりやすい映像が求められ、CG(コンピュータグラフィック)が多用されているという。油谷氏は「その結果、生じたのは表現のバブルで、飽きられることになる。ある意味で『おくりびと』の受賞は、時代の転換を象徴しているのではないか。今後も地道に作品を作り上げることが重要になりそうだ」と語っていた。
2. 京急「駅メロ」CD好発進、発売1か月半で1万枚
京急電鉄(本社・東京)の駅のホームで流れている駅メロディーを集めたCDが、同社や発売元の予想を超える評判を呼んでおり、発売開始から約1か月半で1万枚以上が売れている。
駅メロは、通勤や通学で駅を利用する人にとって身近な音楽の一つだけに、鉄道マニアの枠を超えて人気が広がっているようだ。
このCDは「京急駅メロディ オリジナル」(1500円)で、3月18日に販売が始まった。京急は昨年以降、一般公募で決めた「上を向いて歩こう」「夢で逢えたら」などの駅メロを計17駅で流しており、CDには、17駅で流れる30曲を収録した。列車がカーブを曲がる時に発する「曲線通過音」などの“効果音”も収録。「ドレミファ……」と音階を踏んでいるように聞こえる、ドイツ製制御装置が発する電車の起動音は、同CDの「目玉」の一つという。
発売元の「ユニバーサルミュージック」(東京)は当初、マニア向けとして700枚の出荷でスタートした。ところが、品切れとなる売店が続出したほか、インターネットでも次々と売れたため増産を開始。京急も期間限定で、各駅で駅メロを携帯電話にダウンロードできるサービスを始めた。
品川駅の売店店員(61)によると、「鉄道ファンの若い男性だけではなく、年配の女性も買っていく。子供が親に頼んで買ってもらうことも多い」という。
ユニバーサルミュージックでCDの企画を担当する渡部清隆さん(43)は、「(発売当初は)地区が限られた一私鉄のCDという認識だった。短期間でここまで売れるとは」と舌を巻き、「鉄道ファンが低年齢層や女性にも広がっているのでは」と分析する。
駅メロがCDとして大々的に売り出されたのは、「テイチクエンタテインメント」(東京)が2004年3月に発売した「JR東日本 駅発車メロディーオリジナル音源集」で、これまでに5万枚超を売り上げた。05年6月に発売した第2弾の駅メロCDの売り上げも、4万枚を超えた。CDを手がける同社の担当者は「普段聞き慣れている人が親近感を覚えて手にしてくれているのではないか」とみる。
駅メロは、視覚障害者の間でも根強い人気だ。
視覚障害を持つ約50人の高校生が通う都立文京盲学校の沢田晋校長によると、「駅メロに癒やされる生徒も多いようだ。駅メロを録音している生徒もいる」という。全盲の三段跳び選手で、バイオリニストとしてデビューを果たした白井崇陽さん(25)も駅メロファンの一人で、「駅や路線ごとに音楽が違うのはすごく役立つ」と話す。駅メロ制作を手がける音源制作会社「スイッチ」(東京)では、白井さんの演奏を生かした駅メロディーを新たに作曲することも検討している。
◆駅メロディー=電車の接近や、発車を知らせるベルの代わりに流している音楽。首都圏での広がりのきっかけは、JR東日本が1989年、国鉄民営化後のイメージ刷新のため、新宿駅と渋谷駅に導入した時とされる。同社の駅メロディーが流れる目覚まし時計といった関連商品も人気。