アカデミー賞候補作決まる 米国の気分、色濃く
第81回米アカデミー賞の候補作が決まった。「おくりびと」が外国語映画賞にノミネートされ、日本人にも楽しみが増えた今回は、主要部門も充実。経済不況と政権交代に直面する米国の、時代の気分を色濃く映す作品が並んだ。
■作品・監督賞の5候補一致
前哨戦の映画賞でおびただしい作品名が挙がり、今回のオスカーは大混戦を予想する声が強かった。だが、ふたを開けるとの通り、作品賞と監督賞の5候補はぴったり一致。大ヒット作「ダークナイト」は、急逝したヒース・レジャーの助演男優賞を除くと技術部門のノミネートにとどまり、「ウォーリー」も作品賞には届かなかった。
候補数の首位は「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」の13部門。老人の体で生まれ、年を重ねるにつれて若返る男を主人公に、米国の20世紀が描かれる。
主役のブラッド・ピットは初の主演男優賞候補に。パートナーのアンジェリーナ・ジョリーも「チェンジリング」で主演女優賞候補に挙がり、W受賞の成否も注目される。
最大のライバルが「スラムドッグ$ミリオネア」。インドのスラム育ちの少年が、路上で学んだ知恵を武器にクイズ番組を勝ち上がる。「28日後……」の英国人監督ダニー・ボイルが、インド人キャストで現地撮影した異色作だ。
米映画界のリストラの余波で一時は劇場配給も危ぶまれたが、昨秋公開されるや、苦境を生き抜く少年の姿が共感を呼び大ヒット。映画同様の成功物語を実現した。候補数は10件で2番手だが、前哨戦の主要賞を次々獲得。オスカー作品賞との重複率が高い米製作者組合の作品賞も受賞し、期待値は高い。
他の3作品はいずれも歴史の転換点が舞台。
「MILK」は同性愛者だと公表して米国で初めて公職選挙に当選した社会活動家をショーン・ペンが演じる。草の根から登場したリーダー像は、オバマ大統領誕生の背景とどこか呼応する。
「フロスト×ニクソン」は、ウォーターゲート事件で失脚したニクソン元大統領に英国人司会者が独占会見した実話を描く。晩節を汚した権力者の姿、メディアと権力の攻防が生々しい。「愛を読むひと」はホロコーストを背景にしたベストセラー小説「朗読者」の映画化だ。
さて、気になる外国語映画部門。こちらも政治の色が濃い。
最有力と目されるのがイスラエルの「戦場でワルツを」。昨年の東京フィルメックス大賞受賞作で日本公開も決定。レバノン侵攻に従軍したアリ・フォルマン監督が、自らの心の傷と戦禍の悲劇をアニメで表現した。
フランスの「The Class」は多民族の生徒が学ぶ学校の日常を描いたカンヌ国際映画祭最高賞受賞作。ドイツの「バーダー・マインホフ・コンプレックス」は70年代の極左過激派集団の実録ドラマ。オーストリアの「Revanche」は2組のカップルを巡るスリラーだ。
重い内容の作品が並ぶなか、人と人のきずなを描く「おくりびと」の温かさがどう評価されるか。結果は2月23日(日本時間)に発表される。
2. 「金熊賞」18本が競う ベルリン映画祭来月5日開幕
59回目を迎えるベルリン国際映画祭が2月5~15日(現地時間)に開かれる。最高賞「金熊賞」を競うコンペティション部門には18本が並んだ。審査委員長は「フィクサー」でアカデミー助演女優賞を得たティルダ・スウィントン。
国際映画祭の受賞経験があるベテラン勢が多い。フランスのベルトラン・タベルニエ監督は、ミステリー小説『エレクトリック・ミスト』を映画化する。トミー・リー・ジョーンズが刑事に扮する。イギリスのスティーブン・フリアーズ監督はミシェル・ファイファーと組み、元高級娼婦(しょうふ)の中年女性と、青年との恋を描いた小説『シェリ』を映像化。ポーランド映画を率いてきた82歳のアンジェイ・ワイダ監督は「Tatarak」で参加する。
中国の陳(チェン)凱歌(カイコー)監督の「花の生涯~梅蘭芳」(邦題)は、京劇の伝説の女形が名声を得てから、日中戦争下で苦渋の決断を迫られるまでを描く。話題作では、デミ・ムーア主演の「Happy Tears」などが並ぶ。
コンペに日本映画は入っていないが、コンペ外の日本作品では、外来の精神科診療所に密着したドキュメンタリー「精神」がフォーラム部門に。想田和弘監督は07年の「選挙」に続く出品となる。同部門には、園子温監督の4時間近い長編「愛のむきだし」、若手の市井昌秀監督の「無防備」なども選ばれている。また、国内の複数の映画賞で高い評価を受けている橋口亮輔監督の「ぐるりのこと。」が、パノラマ部門で上映される。
第81回米アカデミー賞の候補作が決まった。「おくりびと」が外国語映画賞にノミネートされ、日本人にも楽しみが増えた今回は、主要部門も充実。経済不況と政権交代に直面する米国の、時代の気分を色濃く映す作品が並んだ。
■作品・監督賞の5候補一致
前哨戦の映画賞でおびただしい作品名が挙がり、今回のオスカーは大混戦を予想する声が強かった。だが、ふたを開けるとの通り、作品賞と監督賞の5候補はぴったり一致。大ヒット作「ダークナイト」は、急逝したヒース・レジャーの助演男優賞を除くと技術部門のノミネートにとどまり、「ウォーリー」も作品賞には届かなかった。
候補数の首位は「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」の13部門。老人の体で生まれ、年を重ねるにつれて若返る男を主人公に、米国の20世紀が描かれる。
主役のブラッド・ピットは初の主演男優賞候補に。パートナーのアンジェリーナ・ジョリーも「チェンジリング」で主演女優賞候補に挙がり、W受賞の成否も注目される。
最大のライバルが「スラムドッグ$ミリオネア」。インドのスラム育ちの少年が、路上で学んだ知恵を武器にクイズ番組を勝ち上がる。「28日後……」の英国人監督ダニー・ボイルが、インド人キャストで現地撮影した異色作だ。
米映画界のリストラの余波で一時は劇場配給も危ぶまれたが、昨秋公開されるや、苦境を生き抜く少年の姿が共感を呼び大ヒット。映画同様の成功物語を実現した。候補数は10件で2番手だが、前哨戦の主要賞を次々獲得。オスカー作品賞との重複率が高い米製作者組合の作品賞も受賞し、期待値は高い。
他の3作品はいずれも歴史の転換点が舞台。
「MILK」は同性愛者だと公表して米国で初めて公職選挙に当選した社会活動家をショーン・ペンが演じる。草の根から登場したリーダー像は、オバマ大統領誕生の背景とどこか呼応する。
「フロスト×ニクソン」は、ウォーターゲート事件で失脚したニクソン元大統領に英国人司会者が独占会見した実話を描く。晩節を汚した権力者の姿、メディアと権力の攻防が生々しい。「愛を読むひと」はホロコーストを背景にしたベストセラー小説「朗読者」の映画化だ。
さて、気になる外国語映画部門。こちらも政治の色が濃い。
最有力と目されるのがイスラエルの「戦場でワルツを」。昨年の東京フィルメックス大賞受賞作で日本公開も決定。レバノン侵攻に従軍したアリ・フォルマン監督が、自らの心の傷と戦禍の悲劇をアニメで表現した。
フランスの「The Class」は多民族の生徒が学ぶ学校の日常を描いたカンヌ国際映画祭最高賞受賞作。ドイツの「バーダー・マインホフ・コンプレックス」は70年代の極左過激派集団の実録ドラマ。オーストリアの「Revanche」は2組のカップルを巡るスリラーだ。
重い内容の作品が並ぶなか、人と人のきずなを描く「おくりびと」の温かさがどう評価されるか。結果は2月23日(日本時間)に発表される。
2. 「金熊賞」18本が競う ベルリン映画祭来月5日開幕
59回目を迎えるベルリン国際映画祭が2月5~15日(現地時間)に開かれる。最高賞「金熊賞」を競うコンペティション部門には18本が並んだ。審査委員長は「フィクサー」でアカデミー助演女優賞を得たティルダ・スウィントン。
国際映画祭の受賞経験があるベテラン勢が多い。フランスのベルトラン・タベルニエ監督は、ミステリー小説『エレクトリック・ミスト』を映画化する。トミー・リー・ジョーンズが刑事に扮する。イギリスのスティーブン・フリアーズ監督はミシェル・ファイファーと組み、元高級娼婦(しょうふ)の中年女性と、青年との恋を描いた小説『シェリ』を映像化。ポーランド映画を率いてきた82歳のアンジェイ・ワイダ監督は「Tatarak」で参加する。
中国の陳(チェン)凱歌(カイコー)監督の「花の生涯~梅蘭芳」(邦題)は、京劇の伝説の女形が名声を得てから、日中戦争下で苦渋の決断を迫られるまでを描く。話題作では、デミ・ムーア主演の「Happy Tears」などが並ぶ。
コンペに日本映画は入っていないが、コンペ外の日本作品では、外来の精神科診療所に密着したドキュメンタリー「精神」がフォーラム部門に。想田和弘監督は07年の「選挙」に続く出品となる。同部門には、園子温監督の4時間近い長編「愛のむきだし」、若手の市井昌秀監督の「無防備」なども選ばれている。また、国内の複数の映画賞で高い評価を受けている橋口亮輔監督の「ぐるりのこと。」が、パノラマ部門で上映される。