杉浦 ひとみの瞳

弁護士杉浦ひとみの視点から、出会った人やできごとについて、感じたままに。

・教育再生会議の「親学」提言は2つの意味で誤り

2007-04-28 02:53:00 | いじめ問題・子ども問題
「親学」を提言は2つの意味で誤り
下にあげますが、教育再生会議は「親学」に関する提言をまとめ正式発表するということですが、これは2つの意味で間違っていると考えます。

1 現実に即していない内容がおおいこと。内容の実現に必要な国が行うべきことについてまったく検討もされていないこと。

 今回の提言は、現実の生活に即していないものが多いし、本来行うべき提言内容の実現のための検討がされておらず、また実現の前提として国がすべきことも示されていません。このような提言に、とうていまじめには取り合えません。
(語るのもバカバカしい気がするのですが)分かり易い例を出せば、

・声の出ない親は子守歌は歌えないし、母乳のでない母親は母乳をあげられません。

・子どもと対話し教科書に目を通したくても仕事を掛け持ちして家計を支えなければならない家庭ではできません。リビングのソファに腰を掛けて子どもと談笑しながら「教科書をもっていっらしゃい」「ハイ、お母さん」とにこやかに教科書をのぞき込む、なんていうホームドラマのようなゆとりのある家庭を思い描いているのではないでしょうか。

・「テレビでなく演劇などの芸術を鑑賞」
するお金と時間がない場合はどうしたらいいのですか。テレビでスポーツ観戦をしながら話を弾ませている親子はダメですか。

・「思春期からは自尊心が低下しないように努める」
自尊心を低下させないことがいいことなのは親はみんな知っています。どうしたら自尊心が低下するのか、しないのか、どうしたら自尊心が保てるのか、少なくともその点についての検討をして指針を示さないで、何が教育再生会議なのでしょうか。
 この点について、私見をあげますと、私は、学校の中で勉強が分からないということが積み重なることは自尊心を失うひとつの大きな理由だと思います。大人だって、新しい会社とか、趣味のサークルだっていいですが、そこでほかの人たちより飲み込みが悪くて、行くたびに自分でも劣等感を感じ、まわりの人からもダメな奴だと言われたり、言われなくてもそう思われているのではないかという気持ちが重なるとき、自尊心を失いませんか?
 子どもたちは少なくとも義務教育の9年間その可能性のある状態におかれます。
授業の分かる学校にすること、少人数で教師にゆとりを持たせる=教員を増やす、
勉強(特に主要科目と呼ばれるもの)だけでない価値観を見つけて教員が評価すること、などなど自尊心を保つための工夫はあるはずです。でもそれにはお金をかけることが必要です。それを、なにもしないで、「努力せよ」!
教育再生会議のメンバーを何度も集めて会合をするのに、国はいくらかけているのでしょうか。

こんな現実にそぐわない内容、言い放つだけの提言、すべて無用ですし、仮にこれが励行できない親が非難されるようなことがあれば、「言っている方がおかしい」と開き直れない親が卑屈になり、親が自尊心を害することになります。有害でさえあります。

第2に、親の在り方を国が決めることの誤り
 たしかに、巷には耳を覆いたくなるようなとんでもない親の行動が報道されることがあります。でも、多くの家庭は逆にそうではないわけです。
そもそも、親子の関係はその情愛に基づき、親は子に対して子どもの幸せと親自身の期待を込めて育てていきます。そこには個々の親の個性、個々の子どもの個性、があり、それぞれの家庭の子育てのやり方は憲法で保障されているものです(憲法13条の幸福追求権)。また、親子を囲む社会的・経済的事情があります。兄弟が姉妹は何人か、おじいちゃん、おばあちゃんと同居しているのか、働き手がサラリーマンか自営化、都市部か田舎かなどなど。
 憲法は、人の権利を制限するのは原則として、自分の権利の実現が他人の権利を侵害する、もしくは可能性がある場合です。それ以外の場合に、干渉される必要はありません。親の育て方が子ども人権を侵害する程度に至らなければ、国は干渉する必要はありません。
 逆に、各家庭に国が首をつっこんで、子どもの育て方を決めていくとすれば、親の子を育てる自由を侵害するだけでなく、国による家庭の在り方の統制の手段ともなりかねません。 
戦前、国家と家庭を相似形のものとして、全体的な統制を測り、そして行き着いた先は戦争でした。
 家庭には、個々の家庭独自の家庭力を認めなければいけないと思います。それでこそ、いろいろな価値観を育む文化ができていくことになると思います。
国は、子ども・親・親子・家庭が健全であるように、そのための制度、施策を行うべきです。

 お金を出さずに、提言を守るように、と国民に押しつけるのは、国が真の教育改革に真摯でない明らかな証拠です。
 国民は笑い事だと思っていても、今の国会は十分な審議をせずに強制裁決を繰り返してきており、真剣に取り組まないと、冗談ではなくなる危険があります。

以下、新聞から引用

教育再生会議:親向けに「親学」提言 母乳、芸術鑑賞など
 政府の教育再生会議は25日、親に向けた子育て指針である「『親学(おやがく)』に関する緊急提言」の概要をまとめた。子どもを母乳で育てることを呼びかけたり、父親にPTA参加を呼び掛けるなどの内容。政府の有識者会議が家庭生活のマニュアルを示し提言をすることには会議内にも慎重論があるだけに、世論の評価は分かれそうだ。

 東京都内で同日開かれた主要メンバーによる運営委員会で示された。5月の第2次報告の前に正式発表する見通し。

 「親学」は、親も子育て学習をする必要がある、との認識から一部の保守系有識者が提唱している考え方。子育ての知恵や文化を伝えることが主眼で、再生会議では17日の同会議第2分科会(規範意識)で提言を行う運びとなった。山谷えり子首相補佐官や池田守男座長代理らが概要をまとめた。

 概要では「脳科学では5歳くらいまでに幼児期の原型ができあがる。9歳から14歳くらいに人間としての基礎ができる」と指摘するなど、11項目にわたり具体論を展開。「子守歌を歌う」▽「授乳中はテレビをつけない」▽「早寝早起き朝ご飯」▽「親子で感動する機会を大切にしよう。テレビではなく、演劇など生身の芸術を鑑賞」▽「インターネットや携帯電話の情報に『フィルタリング』を」など、家庭生活のあり方をかなり具体的に記述。子どもの発達段階に応じ「幼児期段階であいさつなど基本の徳目、思春期前までに社会性を持つ徳目」を身につけさせるよう呼びかけた。

 ただ同会議内にも、「政府が押し付けることか」(学識経験者)と政府版「家庭生活マニュアル」の作成を疑問視する意見が出ており、発表段階で内容に変更が加えられる可能性もある。母乳による育児推奨には「母乳の出ない母親を追い詰める」との専門家の指摘もある。

 ◇「親学」提言のポイント

(1)子守歌を聞かせ、母乳で育児

(2)授乳中はテレビをつけない。5歳から子どもにテレビ、ビデオを長時間見せない

(3)早寝早起き朝ごはんの励行

(4)PTAに父親も参加。子どもと対話し教科書にも目を通す

(5)インターネットや携帯電話で有害サイトへの接続を制限する「フィルタリング」の実施

(6)企業は授乳休憩で母親を守る

(7)親子でテレビではなく演劇などの芸術を鑑賞

(8)乳幼児健診などに合わせて自治体が「親学」講座を実施

(9)遊び場確保に道路を一時開放

(10)幼児段階であいさつなど基本の徳目、思春期前までに社会性を持つ徳目を習得させる

(11)思春期からは自尊心が低下しないよう努める



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