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【ゲームクエスト】10101 "WILL" The Starship

2010-12-06 19:17:08 | ゲームクエスト
10101 "WILL" The Starship(プレイステーション)

2007年10月3日掲載

参考:里見の謎

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 2006年8月、国際天文学連合総会にて冥王星が惑星から準惑星へと降格になった。これについて、意外にもクラシック音楽界が沸き立ったのである。なぜなら、イギリスの作曲家ホルストの作品である組曲「惑星」には冥王星がなかったからだ。冥王星発見以前に作曲されたためである。この一件によって、組曲「惑星」は科学的基準によって名実ともに完全なものとなったのである。

 組曲「惑星」は本来は占星術における惑星の性格を表した音楽であるが、大編成オーケストラによる壮大なスペースサウンドが魅力の人気曲だ。その旋律の一つを使って、近年では平原綾香が「ジュピター」を歌ったのは有名である。ポップスとしても通用する「惑星」の通俗性を軽視する自称「クラシック通」も多い。だが、構築的なオーケストレーションや意外性のある構成によって、クラシック音楽は初めてという人はもちろん、真の「通」にも十分に楽しめる名曲だ。

 前置きが長くなったが(この先も長くなるが)、そんな組曲「惑星」をBGMとしたがために、かえって空しさを増大させてしまったショボショボのゲームが本作「10101 "Will" the Starship」である。わかりづらくて憶えにくいタイトルとしては、「チャタンヤラクーシャンク」に次いで日本で2番目だ。

 本作は、あの「里見の謎」のサンテックジャパン(サウンドテクノロジージャパン)の第二弾である。プレイヤーが期待すべきベクトルも定まろうというものだ。ちなみにBGMの「惑星」はもちろん生音ではなく、プレステ内蔵音源だ。さすがサウンドテクノロジー! 以下では、BGMとなる組曲「惑星」を足がかりに、ゲーム内の各パートを述べよう。

★第4曲:木星──快楽をもたらす者

 輝かしく壮麗な「木星」は、組曲中で最も盛り上がる有名な曲である。祝典的な響きの中、プレイヤーの立場とゲームの目的が告げられる。地球人の末裔「ノア」の一人としてプレイヤーは最新鋭宇宙船“Will”を指揮し、謎の敵対勢力「ケアス」と戦うのだ。続いて、同行するクルーたちの紹介だ。いまひとつ頼りにならなそうな面々であるが、後述するがこれがまた本当に頼りにならんのだ!

 このゲームはメッセージが全てフルボイスで読み上げられる。しかも声優はやたらと豪華だ。飯島愛も声優に初挑戦! まあそんなことが売りになるなんてゲームとして間違っているんだけど、サンテックジャパンの意気込みは買おう。

 また、平原綾香など多くのアーティストが使った旋律は、イベントシーン等で聴くことが出来る。

★第2曲:金星──平和をもたらす者

 静かで美しいBGM「金星」が流れるのは、ゲームのメインとなるフィールド画面とブリッジ画面である。「平和をもたらす者」の文字通り平穏な時が過ぎる、わけではなくて、これらがこのゲームでもっとも心の平静を乱す部分なのである。

 フィールド画面の宇宙は2次元平面である。これはひょっとして物理学で流行の「超弦理論における次元の巻き上げ」ですか? そしてどうやらこの平面宇宙には階層構造があるようだ。宇宙の階層構造なんて仰々しいが、要するに2次元マップにおける○階建てのタワーのようなものだ。それを宇宙でやってしまうなんて、私のゲーム暦の中では「クルーズチェイサー・ブラスティー」以来かもしれない。しかも我が最新鋭艦“Will”は止まれないし、ゲーム初期では鋭角的に曲がれない。さらに障害物で囲まれていたりしたら大変だ。体育館の中でブレーキの利かない自動車を運転しているような感じだ。

 フィールド画面からブリッジ画面に切り替えると、艦長の位置から艦橋内部を見渡した画面になる。ここでは各クルーに指示を出し、装備を整えたりできる。他にも船体の各機能のチェックをさせるコマンドがあるが、明らかに船が異常な行動をしているのに、こいつらときたらプレイヤーが指示しなければ気づきもしないらしい。人に言われなければ何もやらないなんて、お前たちはイマドキノワカモノか! しかも結構頻繁に異常事態になるからたまらない。船もクルーも全部取り替えてくれ!

 止まれない最新鋭艦“Will”は移動するだけでもかなりの量のエネルギーが必要である。これを回復するには、敵と戦ってVP(経験値と金を兼ねたポイント)を稼がなければならない。このことから、(1)勝手に移動してエネルギーを消費、(2)敵と戦ってVPを取得、(3)VPを消費してエネルギー補給、というエンドレスワルツと言うよりはバミューダトライアングルのような沈没船プレイが要求されるのがわかるだろう。だがこれを幾分か回避する手段もある。ブリッジ画面にしておくと移動しないですみ、敵も勝手に現れてくれる。索敵すると効率アップ。いたって暇なプレイだが、序盤のVP稼ぎには不可欠だろう。

★第1曲:火星──戦争をもたらす者

 組曲の冒頭を飾る好戦的な「火星」は、5拍子のリズムを持つ緊迫した音楽であり、戦闘シーンにこそふさわしい。宇宙戦争というテイストにベストマッチしたBGMに乗り、遠距離用の主砲と近距離用の副砲を使い分け、敵を撃破せよ! 3Dシューティング画面で敵を狙い撃つ戦闘シーンは本作の売りの一つだ!

 …などと書けば威勢はいいが、3Dとは言っても敵は画面上の決まった軌道をせかせかと移動するだけだ。決まった軌道、つまりは実質1次元だ! 捕捉した敵には必ずヒットするというシステムも、3次元の奥行きを無視したものとなっている。照準は2次元的に動かせるが、それを考慮して大目に見ても、せいぜい1.5次元といったところだろう。お世辞にも3次元とは言えず、文字通り「低次元の争い」である。

★第6曲:天王星──魔術師

 「天王星」は幅広いダイナミックレンジと千変万化する曲想を持ち、どこか狂信的な雰囲気がある。私が一番好きな曲だ。浮遊感のある奇妙な旋律のもとで、アイテム取得(拾得)イベントが始まる。だが、アイテムの動きがBGM以上に浮遊感があり奇妙なので、慣れないとうまく拾えないだろう。

 宇宙に最新鋭以上の装備品が落ちているのも変な話だが、これを拾わないとパワーアップできないので文句は言うまい。しかしながら、拾えても拾えなくてもコケにされるようなコメントをフルボイスで拝聴することになるのは、文句が喉まで突き上がってくること請け合いだ。

★第3曲:水星──翼のある使者

 「水星」は軽快なスケルツォ風の楽曲である。中間部に一瞬見せる重層的な側面も印象的である(ゲーム中のあるイベントで使われている)。この曲は主にスペースコロニー内で流れる音楽であるが、「いらっしゃいませーっ!」のボイスがこれまたBGM以上に軽快、というか場違いで、プレイヤーは腰砕けとなろう。

 コロニーやステーションではエネルギー補給、アイテム鑑定、セーブが可能であり、頻繁に立ち寄ることになるだろう。オペレータは美人ぞろいだが、階層によっては宇宙ハニワが出てきたりするので油断はできない。また、エネルギー補給は容量の小さいエネルギーパックを装備しているとVP支出を抑えられるというワンポイント攻略から、まるで本作のテキトーに作られたプログラムが透けて見えてくるかのようだ。

★第5曲:土星──老いをもたらす者

 憂いに満ち、打ち鳴らされる鐘が印象的な「土星」は、組曲の中でも最大規模である。シリアスで厳しいが、暗くはなく、余裕も感じさせる。イベントシーンでイントロが使われているのみであるが、そのイベントシーンとは、クルーの中でただ一人ご老体の「ドク」が巻き込まれるものである。選択肢によってはほとんど素通りできるようであるが…。

 宇宙の階層の幾つかでは、クリアのためにイベントをこなさなければならない。ちなみに本作は、クリアしてもエンディングは無く、いきなりスクリーンセーバー風の映像と島紘子の歌が素敵なスタッフロールが始まる。さらにクリアデータで再開すると、新たな武器やイベントが追加された続きがプレイできる。

 さらに真のエンディングでは、ドクが地球の衝撃の歴史を語ることになる。その時に、タイトルの「10101」の意味が明かされるのだが、なんだか納得ができなかった。

★第7曲:海王星──神秘主義者

 女声合唱を伴い、無限の恒星間空間へと消えていくかのような組曲最後の「海王星」だけは、ゲーム中で確認されていない。ひょっとしたらイベントの選択肢によっては聴けるのかもしれない。その確認は皆さんにお任せしたい。この曲だけ使われていないのはおかしいが、このゲームがおかしいのはこれに限ったことではないので、気にしないことにしよう。

 以上、茶化して書いた部分もあるが、私は本作を意外と気に入っている。ケース裏には、シューティング、RPG、アドベンチャーなどと書いてある。それだけを見ると、本作はそれらをごった煮にして自己満足に浸っているジャイアンシチューのようなゲームに思われるかもしれないが、実はそんな浅はかなものではない。プレイヤーは艦長として宇宙船の全てを把握して的確な指示を出す、言わば「宇宙船運営シミュレータ」なのである。

 近年のゲームで、本作以上に、宇宙の深淵を自在に駆け巡るゲームが果たしてどれほどあるというのか?

 本作はファミコンの「スターラスター」に近いとの評をよく聞くが、私個人としては太古のパソコンゲーム「スターフリート/B」を思い出した。この作品は、性能の低い当時のパソコンの内部に3次元宇宙空間を再現した夢のゲームであった。戦艦のエネルギー量や兵器をマネージメントしながら敵を倒し、宇宙の広さと未知の危険に挑むという構成は、本作がそのまま受け継いでいる。

 このように、本作は古いゲームを進化させたものだ。だが進化の途中で3次元の宇宙空間は次元を一つ落っことし、代わりに拾ったのが「だめで、ございましたのねぇ。おほほほほほ」という飯島愛のボイスだったのはすこぶる残念だ。それでも私は、何かおかしな点はあっても本作を好む。カメラ視点の「ドラマ」ではなく、プレイヤー視点の「ゲーム」があるからだ。

 クラシック(古典的)なゲームには、クラシックな音楽が合うのかも知れない……。

 ……と言えれば格好がついたんだがなぁ。完璧に音楽に負けてるよなぁ。