荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『スペル』 サム・ライミ

2009-11-26 02:06:13 | 映画
 あまり大仰なことを言い立てるのは品のないことだと承知していても、やはりこれだけは言っておきたい。サム・ライミの最新作『スペル』を見ると、人生が楽しくなるのだ、と。背筋も凍る恐怖が用意されているのは、ホラー映画なのだから当たり前だとしても(じつは当たり前でもないというのが、このジャンルの実情だが)、抱腹絶倒なる喜劇的カットが、これでもかと見る者に襲いかかる。
 笑いといっても、どこぞの「お馬鹿映画」とやらのようなマニア相手の優越的クスクス笑いではない。哄笑である。本作では、被害者も加害者も、じつに大口を開ける。それにつられて、観客も大口を開ける。恐怖におののく。大笑いする。ヒロインの行動原理に怒りを覚える。さまざまなエモーションを私たちの体内から掘り起こし、私たちを元気にする。
 『スペル』を見ることは、肝が冷えるというよりは、体の芯から温まる感覚であり、漢方薬のような効能がある。


TOHOシネマズ日劇他、全国で上映中
http://spell.gaga.ne.jp/