荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『愛情の系譜』 五所平之助

2009-11-12 01:40:07 | 映画
 東京・東中野ポレポレ坐ではじまった自伝出版記念の岡田茉莉子回顧上映にて、五所平之助『愛情の系譜』(1961)を初見。共演は三橋達也、山村聰、乙羽信子、桑野みゆき。ほとんどかからない1本なので、貴重な上映機会である。
 実際に見てみるならば、あまりかからぬこともやむなしというような出来だったが、一応は五所平之助だけに「ちゃんと」作ってはある。ただ、五所は清水宏あたりと同様、戦前のほうが簡便に撮っていながらもキレがあり(たとえば『花嫁の寝言』の記事を請参照)、『煙突の見える場所』(1953)、『黄色いからす』(1957)など、東宝争議で左翼闘争に参加して以降のフィルモグラフィには抽象的、観念的に振れすぎた作品が散見される。『「通夜の客」より わが愛』『白い牙』『猟銃』と3連続する1960年の井上靖ものが、観念的作風の最たるものだろう(とはいえ、『白い牙』をのぞく2本は相当に感動的な作品だが)。
 戦後では、『わかれ雲』(1951)、『大阪の宿』(1954)といったリアリズム的なスケッチ作品のほうが遙かにいいが、岡田茉莉子の魅力を体験するという点においては、『愛情の系譜』は最適なメロドラマである。この女優は、あの伝説的な『秋津温泉』(吉田喜重 1962)でもそうだったし、今回の『愛情の系譜』でもそうだが、我慢が頂点に達して思いきり泣きはらす演技と、男に抱かれながらも心ここにあらずという朦朧とした演技に、抜群の才能を発揮するように思える。

P.S.
岡田茉莉子を見たあとは、なぜか都営新宿線で日本橋浜町に行き、旨い上海料理店「E」にて、シーズン真っ直中の上海蟹を穿る。


回顧上映「女優 岡田茉莉子」
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