荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『アンナと過ごした4日間』 イエジー・スコリモフスキ

2009-11-01 01:47:30 | 映画
 昨年の東京国際映画祭審査員特別賞受賞作が、ようやく一般公開されている。ポーランドの映画作家イエジー・スコリモフスキの17年ぶりとなる新作『アンナと過ごした4日間』である。製作はポルトガルの名プロデューサー、パウロ・ブランコ。

 この作品の主人公レオン・オクラサ(アルトゥル・ステランコ)と、彼から一方的な愛を受ける看護婦アンナ(キンガ・プレイス)が住むこの村は、いったいどこにあるのだろうか。首都ワルシャワからどれくらい離れているのか、いったいこれはいつの時代の作品なのか、それを見る私には皆目見当もつかない。前半で登場するスーパーマーケットのレジがバーコード・リーダーだったので、大昔の物語でないことくらいはわかる。
 無時間の真空パックの中身を、映画作家が慎重かつ大胆に攪拌していく。このフィルムが映写されている間、それを見る者は座標軸を見失い、時系列も見失うことになるが、あるメートルだけは視覚として、また歩行距離としてもはっきりとしている。主人公レオン・オクラサとアンナの部屋の窓から窓までの距離。映画とは、かくも少しの空間しか撮影されていないにもかかわらず、世界の大きさを映せてしまうものなのか。ミニマルな表現がミニマリズムにとどまらない素晴らしい例証だ。


10月17日より、渋谷シアター・イメージフォーラムで上映中
http://www.anna4.com/