さじかげんだと思うわけッ!

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クリスマス特別企画 ルドルフ(2)

2007-12-24 23:59:59 | 民話ものがたり
森の中に、ひときわ大きいもみの木があります。音は、そのもみの木の根元から聞こえてきたのでした。
もみの木の下には、木に激突したとおぼしき老人と、数匹のトナカイがうずくまっていました。
その姿を見たルドルフは、大変驚いてその老人とトナカイたちの元へと駆け寄っていきました。
「ニコラオスさま、大丈夫ですか」
その声に反応した老人が、それまでの鬱屈とした表情からぱっと顔を明るくして、ルドルフの方を見た。
ニコラオスはこの森の北の端に住む聖人で、毎年クリスマスになると空飛ぶソリとトナカイを連れて世界中の子どもたちに、夢を配り歩いていました。人々は、サンタクロースと親しみを込めて呼んでおりましたが、その本当の名は聖ニコラオスといいました。
そのニコラオス老人は、ルドルフの姿を認めると、
「おお、森の外れから火の玉がやってくるかと思えば、赤鼻のルドルフか」
と笑っていいました。。
ルドルフはその問いかけには答えず、「どうしたんですか、こんな暗い晩に?」と質問を返しました。
「いや、何。クリスマスのために、トナカイたちの訓練を兼ねて、ソリの試し走りをしていたのさ」
ルドルフは、不思議そうな顔をして
「ソリの試し走りはわかりますが、ニコラオスさまのトナカイに訓練なんて必要なんですか。しかも、こんな新月の真っ暗な晩に」
「ホッホ。ルドルフよ、確かにわしらが夢を配り回るクリスマス・イヴの晩は新月に当たることは滅多にない。しかしな、もしかしたら月を分厚い雲が覆い隠し、雪が舞い、風が巻き起こり、雷鳴がとどろくことがあるかもしれない。そうなったとき、焦り戸惑わぬためにもこのような真っ暗な空を駆けることも訓練しなければならないのだ。まぁ、それがこのざまだがな」
とホッホとまた笑って、
「しかし、本番ででかい失敗をするよりも、本番の前に小さな失敗を積み重ねておくことだ」
と急に真顔になって言うものだから、ルドルフは思わず笑ってしまった。
その様子を黙ってみていたニコラオスが、何かに気がついたようで、「おおそうか」と声を上げた。
「最近、森で噂だった新月の晩の火の玉の正体は、そうかルドルフ。お前だったのか」
と言われると、ルドルフはばつの悪そうな顔をした。
それだけで、ニコラオス老人はすべてを覚ったようだった。なぜ、ルドルフがこんな真っ暗な新月の晩に一人で歩き回り、ほかの多くの動物たちと同じように昼間に活動しないのか。
そして、ルドルフが抱えている心の問題をも、敏感に感じ取った。
そこで、ニコラオスはちょっと意地悪く、こんな質問をした。
「ルドルフよ、そんなに自分の赤い鼻が嫌いかね?」
そのひと言は、ルドルフの心のダムに、小さな小さな穴をあけた。しかし、ルドルフの心のダムは赤い鼻の劣等感で一杯になっており、その穴はみるみるうちに広がり、やがて壁は崩れた。そして、ルドルフはその思いを溢れさせた。
「ニコラオスさま、お言葉ではありますが」
と前置きをしてから、
「もし、ニコラオスさまの鼻がぼくのように、血のような真っ赤な鼻を持っていたらどうお感じになるでしょうか。ぼくはこの鼻のせいで、森中のみなに笑われ、蔑まれ、罵られてきました。しかし、どうすることもできません。なぜですか、なぜ、ぼくはこのような鼻なのですか。なぜ、神さまはみなと同じように、黒くて湿った鼻をわたしにお与えにならなかったのですか」
ニコラオスは、じっとルドルフの目を見て、彼の話をひたすらに聞いておりました。
ルドルフはそれまでの恨み辛みを涙ながらに訴えて、やがてすっかりとはき出してしまうと疲れ果てて、その場にしゃがみ込んでしまいました。
ルドルフにとって見れば、その疲労は死への安らぎとも感じられました。
ルドルフが落ち着くのを待ってから、ニコラオスは口を開きました。
「ルドルフよ。おぬしの苦しみはよくわかった。確かに、おぬしのその鼻は、おぬしに数え切れない苦難を与えてきた。それを思えば、その鼻は"個性"などという軽い言葉で片付けられるような代物ではないことが、よくわかる」
ルドルフは聞いているのかいないのか、死を与えられることを待っているかのようにうなだれておりました。
「しかしな、すべての個体にぴんからきりがあるように、欠点や癖というものにも、どうにもならないという欠点と、使いようによっては有用な欠点というのがあるのだ」
その言葉に、ルドルフはそのよく動く耳をようやく、ニコラオスの方に傾けました。
ニコラオスは、
「どうじゃ、ルドルフよ。その鼻をわしにかさんか?」
というと、ホッホといつもと同じように穏やかに笑いました。

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