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クリスマス特別企画 ルドルフ(3)

2007-12-25 23:59:59 | 民話ものがたり
聖ニコラオスのソリを引くトナカイは、八頭います。
先頭から順番に、ダッシャー・ダンサー・プランサー・ヴィクセン・コメット・キューピッド・ブリッツェンという名前がついていて、彼らは聖ニコラオスの仕事を手伝うために特に選ばれた、言うなればエリートでした。
半永久的な命を与えられ、空を自由に飛び回る力を得る代わりに、聖ニコラオスに絶対の服従を誓っていました。同時に、神の使いとしての使命を帯びる存在でもありました。
彼らは多くのトナカイの尊敬の的ではありましたが、彼らのようになろうと思っているトナカイはいませんでした。
その使命が、どれだけ尊いものであるかを知っていましたし、そしてその使命がどれだけ面倒くさいかと言うことも知っていたからです。
毎年、12月24日の夕方。
北欧の森では、聖ニコラオスがサンタクロースとなり、世界中へと旅立つための壮行会を行います。
準備は森の動物たちが総出で行います。特に、一族の英雄がニコラオスを盛り立てる助演者となるトナカイたちの意気込みと言ったら、半端ではありません。
その年のクリスマス・イヴの夕方。壮行会の準備がすっかりと終えて、あとはニコラオス老人と八頭のトナカイがやってくるのを待つだけとなりました。
やがて、森の北の方からシャンシャンシャンという鈴の音が聞こえてきました。
鈴の音が聞こえてきますと、森の動物たちは一斉にざわつき始めました。いよいよクリスマスがやってくるのだと、勘気のざわめきでした。
みなが、北の空に注目します。北の空からは、確かにソリがやってくるようです。
「…あ?」
と一匹のトナカイが空を見上げて言いました。
見れば、ぽっと赤い星が空に上っていたからです。そのトナカイはまだ年若でしたが、しかし生まれてこの方、北の空に宵の明星が上るなど見たことも聞いたこともなかったので、どうも腑に落ちません。
しかも、じっと見ていればその星は、こちらの方へと近づいてきます。
ほかの動物やトナカイたちもそれに気がつき始め、先ほどのざわめきが今度はまた別の性質のものになっていました。
あの赤い光は、もしかしたら赤鼻のルドルフではないのか、という声が起き始めました。
赤い星は、鈴の音とともに近づいてきます。やがて、その星の正体がはっきりしてきました。
「ル、ルドルフだ」
「赤鼻のルドルフがなぜ?」
聖ニコラオスのソリを引くトナカイは八頭ではなく、九頭でした。そのトナカイの先頭を走るのが、誰あろうみなの笑いものであった赤鼻のルドルフだったのです。
会場は騒然となりました。その騒然とした会場に、空から聖ニコラオスを乗せたソリが降り立ちました。しかし、その衝撃的なルドルフの登場にすっかり会場は騒々しくなっており、落ち着くそぶりを見せません。
ニコラオスはゆったりとしてソリから降り、用意された壇上に上りました。そして、集まった動物たちに語りかけました。
「落ち着け、みな落ち着くのだ」
というと、その場は静まりかえり、ニコラオスの方をむき直りました。
「みなの衆に、話しておかなければならぬことがある。それは、わしの旅の新しい友のことだ」
ということは、取りも直さず、ルドルフのことを指していた。
「今年から、わしの旅の友に、新しく加わったルドルフだ。みなよろしく頼む」
ルドルフは、ぺこりと頭を下げた。
「…ふむ。みな、どうも腑に落ちていないようじゃの。よし、この話をするか」
そういうと、ひとつ咳払いをして、朗々と物語を始めた。
「昔の話じゃ。トナカイという動物はの、その鼻をみな赤いものだった。そう、ちょうどルドルフのようにな。みな、赤い鼻を持っていたのだ。しかし、いつのころからじゃろうな。突然、トナカイの中に黒く湿った鼻を持つ者が現れ始めたのだ。その黒い鼻のトナカイは爆発的に増えての。いまや、すっかり黒い鼻のトナカイが普通になってしまったのだ。しかし、ときどき先祖返りを起こして、赤い鼻を持つトナカイが生まれるものがおるのだ。つまり、ルドルフの赤い鼻は、彼が紛れもないトナカイであることを示しているわけだ」
と、ここまで話して、ゆっくりと視線をトナカイの一団に向けた。
「ルドルフは、そのトナカイの証である赤い鼻を持つために、今までとてもつらい思いをしてきたわけじゃな。トナカイであるがために、悲しい思いをしてきたといえるわけだ」
ここでニコラオス老人は少しの間をおきました。その間中、ずっとトナカイたちを見ておりました。トナカイたちはそれぞれに思い当たる節があって、下をうつむく者もいたり、あるいは涙を流す者さえいました。
「わしは、みながルドルフをいじめたという罪を咎めているわけではない。ただ、残念なのだ」
と頭を振っていった。
「何が残念かと言えば、ルドルフの赤い鼻を、その表面だけを見てあるものを蔑み、あるものは罵り、そしてある者はその事実を嘆き悲しんだ」
と、今度はルドルフの方を見た。
「誰もその本質を見ようとしなかった。それが残念なのだ。なぜ悪いことばかりを考える。なぜ、人を貶めることばかりを講ずるのだ。なぜ、誰一人としてルドルフを導く者がいなかったのだ。これだけの仲間がおるというのに」
じっくりと集まった動物たちを見回した。
「ルドルフはただ、赤い鼻を持って生まれてきただけなのだ。それならば、その運命は甘んじて受けねばなるまい。どうせ受け入れるならば、どうだ。いかによく生きるかを考えるべきではないのか」
そのときだった。ニコラオスはポケットの懐中時計を引っ張り出した。
「さて。みながせっかく用意してくれた壮行会の場がこのようになってしまって申し訳ない。しかし、もう行かねば。キリバスの子どもたちが、わしのプレゼントを待っておる。世界中の子どもたちに夢を配ることこそが、わしの役目だからの」
といって、静まりかえるみなを尻目に、再びソリへと乗り込んだ。
「さぁみなの衆。今日は早く帰って休むがよい。きっとお主らにもわしの夢のプレゼントが届くはずじゃ。楽しみにしていてくれ」
みなが見守る中、ソリはゆっくりと助走をはじめました。
すると、多くのトナカイのうちの一匹が、ソリのあとを追いかけて走り始めました。
「る、ルドルフ。ごめんよ」
と謝りました。すると、その言葉に引っ張られるように、一匹二匹と追いかけ始めます。
「が、がんばれよ。ルドルフ」
「お前のその鼻で、しっかりニコラオス様を導くんだぞ」
ニコラオス老人はそのようすを横目で見て、ほっと笑いました。
ソリは、スピードに乗ってくるとふっと地面から離れました。
みんなの頭の上をくるりと一回転すると、さぁっと南の空に走っていきます。
足についた雪をまきながら、きらきらと尾を引いて飛んでいきました。

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