さじかげんだと思うわけッ!

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クリスマス特別企画 ルドルフ(1)

2007-12-23 23:44:14 | 民話ものがたり
北欧の森で「ルドルフ」といえば、知らぬ者はいません。すぐに、ああ、あいつのことだなとわかります。
せいぜい足が速い以外(それも、他のトナカイよりもちょっとだけ)何の取り柄もないトナカイの青年が、北欧の森中にその名が知れ渡っているのは、その特異な風貌のせいでした。
風貌、といっても、おなかだったりおしりだったり、簡単に隠せるような場所ではありません。隠しようがない場所なのです。
「赤鼻」のあだ名の通り、ほかの人と違っているのは、彼の顔の真ん中にある「鼻」だったのです。
どのように違っているかと言えば、鼻が赤く染まっているのです。
ほんのり赤いぐらいなら、それはそれは大変かわいらしく、たいそう人気もあろうと思いますが、ほんのりどころか、見れば動物の新鮮な血を塗りたくったかのようなそんな衝撃的な赤さだったのです。
もし、その鼻が役に立つものでしたら、きっとみんなルドルフのことをからかったりはしませんし、ルドルフも思い悩むことはしないでしょう。
しかし、どうやら役に立つものではないらしく、森の悪い連中はルドルフを「赤鼻じゃ、赤鼻じゃ」とわめきながら追い回してきます。
これは、ルドルフの父さんのせいでも母さんのせいでもないのです。
ただ、ルドルフがそういう鼻をもって生まれてきたというだけなのです。
ルドルフは、子どもの時はそのことをたいそう恨んで、父さんや母さんに対して八つ当たりなどをしたこともありましたが、しかし、どうにもならないことはルドルフが一番よくわかっていました。
今ではすっかりあきらめはて、外出するときはもっぱら森がすっかり暗くなる新月の晩や、天気が悪くて厚い雲が月を隠しているような夜でした。それでも、あまりに赤い彼の鼻は真っ赤に輝いてとても目立ちました。
新月の夜には火の玉が出ると恐ろしい噂が立っていましたが、実はその火の玉の正体こそルドルフの赤い鼻だったのです。
なので、ルドルフはその噂を聞くたびに鼻だけでなく角の先まで真っ赤にしてしまいます。

さて、一ヶ月ぶりの新月の晩のことでした。
それまでの一ヶ月は、天気がよく明るい晩が続いたので、ルドルフが夜の散歩に出るのは、実に久方ぶりのことでした。
新月の晩は、森が真っ暗になるので普通、動物は歩き回りません。
もしかして、人間の仕掛けた罠があっても気付きませんし、もしかしてオオカミの縄張りにでも迷い込んだら大変なことです。
ルドルフが新月の晩も散歩ができるのは、実はその赤く光る鼻のおかげでした。
しかし、それだけでした。それだけしか、役に立つことはありませんでした。
散歩をしていても、頭に浮かぶのはこの赤い鼻に対する劣等ばかりです。
「ああ、なぜぼくはこんな鼻を持って生まれたんだろうか」
「なぜ、ほかのトナカイと違うんだろうか」
そして、
「なぜ、違うというだけで、ぼくがこんな目に遭うんだろうか」
うちで寝ていても、散歩していても、この鬱々とする気分を払拭することはできませんでした。
鬱々とした気分を抱えたまま、当てもなく森をさまよい歩いていたときでした。
突然、森の奥の方から、何かが木にぶつかったようなものすごい音が聞こえてきました。
新月の晩の森ですから、とても真っ暗で詳しいことは何一つわかりません。
とにかく、ルドルフはあの騒々しい音はただごとではないと思って、音のした方へと向かうことにしました。

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