入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’23年「冬」(15)

2023年11月22日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

           中央アルプスの峰々
   
    牧閉ざす 閑日月を ほくそ笑み  丼子〈どんぶりこ)

 本日をもって、一応牧を閉ざすと決めて山を下りてきた。ただし、だからと言ってこれで上との縁が切れたわけではない。まだまだ行く用事は出てくるから、とりあえず、ということになる。

 これからの暮らしは里が中心になるため、まず食料と酒類を買い込んだ。その足で本屋を覗き、これから始まる無聊な里の日々に備えることにした。留守の間のわが家の主に対しては、殺鼠剤を買うことも忘れなかった。
 取り敢えず本は歴史関係、もう1冊は獣害についての本が目に付き、仕事柄、一応買ってみた。何冊もこの手の本は読んだが、あまり期待は持たない。せいぜい批判的に読ませてもらう。
 最近は、新しい本ばかりでなく、以前に読んだ本を読み返すことも多い。書き込みや、傍線などを読めば、以前の読者である自分とは全く異なる意見、感想を持つこともあって、それも面白い。

 風呂も身を入れて掃除をし、新しい湯を張り、入れるようになる前に少し落ち葉焚きをした。落ち葉はモミジだが、その下に雑草が隠れていて、むしろボロを隠すにはそのままにしておいた方が良いような気がして、途中で止めた。
 まあ、あれは小手調べのようなもので、雑草ばかりではなく、長い間放置しておいた雑多を本格的に片付けるとなったら、とても一日や二日では終わらない、というのがわが陋屋の現状である。
 本を読みながら湯に浸かりたいのか、湯上りの冷えたビールを飲むためなのか、どちらとも言えないまま風呂に入る。ムー、こんなことさえ上ではなかなかできなかった贅沢である。

 当たり前の生活が戻りつつある。里へ暮らしを移したことを知った友人、知人らがあんぽ柿、米、大根などの野菜を持ってきてくれた。里は便利だと話すと、それが当たり前の暮らしだと言われて返す言葉がなかった。確かに、もう外まで行って、流れ出る「有難い」冷水で米を研いだり、食器を洗うことはもうしなくても済む。
 しかしそれにもかかわらず、上での不自由な暮らしを懐かしむ気持ちがないわけではなく、その思いが少しづつ湧いてきている。
 小屋からいつも眺めていた権兵衛山、囲い罠やその背後の落葉松の国有林の風景。第1牧区から眺めていた霧ケ峰、そして美しが原、地平に代わるさらに遠くの峰々。特に夕暮れの迫るころ、大きな空が赫奕たる黄金の残照に染まるころ、さらに静寂を意識させる遠くから聞こえる鹿の泣く声・・・、早くも呼ばれている。
 本日はこの辺で。

 
 
 
 
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     ’23年「冬」(14)

2023年11月21日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

   この写真は18日(土曜日)に、里へ帰る時に撮ったもの
 
 驚いた。よく驚いてばかりいるが、たった3日ばかり経っただけなのにオオダオ(芝平峠)までなら普通タイヤでも来ることができるほど雪は消えていた。「年寄りの元気、春の雪」どころか、あの雪は先を焦った季節の自滅とでも言うしかない。
 
 峠に出ると、上ってきたばかりの芝平へ下る道も、一応迂回路の表示が出ていた。林道を大雨でえぐられた所は埋め戻されていたがあくまでも応急処置でしかなく、はたしてあんな荒れ放題の山道を迂回路にしてよいものかと疑問が残った。
 千代田湖から「枯れ木の頭」までの林道の補修工事は何年も前から初冬の恒例となっていて、わずか100㍍ほどの距離であっても片側通行の処置がとられたことがない。利用者が少ないから工事者側の都合が優先されるのかも知れないが、「千軒平」の迂回路も含め、安全とは言えないだろう。
 通行止めの看板は誰がしたのか、ただその場に倒されたままになっていた。
 
「焼合わせ」を過ぎると、凍結した路面が目立つようになり、やはり冬用のタイヤが欲しくなる。多分、猟師たちだろうが、里へ下る時にはなかった轍がかなり残っていて、土曜日以降は人が結構入ったようだった。
 もしかすれば「ド日陰の大曲がり(コーナー)」は、あのまま根雪になってしまうかも分からない。

 雪は外界からの進入を閉ざす。しかし、閉鎖された世界はそれによって守られる。ここも、今はそういう状況である。
 ここへ着いて早速食器を洗い、米を研いだ。そして、やりかけたままにしてあった伐り倒した落葉松の始末をしに行き、ついでに来春にしようとしていた何本かの同じく実生から生えた落葉松と、目障りなコナシの木も伐った。
 こういう仕事は、何か、誰か、のためにしているわけではない。部屋で石油を空費していても仕方ないからやるだけで、まあ暇つぶしと言ってよく、自己満足のためである。しっかり研いでおいた2台のチェーンソーはよく切れて、それだけで悦に入ったりした。
 
 作業を終えて夕暮れの中を小屋に戻る時、またしても冬山の孤独感は「歯に沁みるようだ」と言った人のことを思い出した。冬山の後に「夕暮れ」とあったかも知れないなどと思いながら。
 本日はこの辺で。K納さん通信ありがとう。

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     ’23年「冬」(13)

2023年11月20日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

 
 里に帰ってきている。現在、芝平へ下る山道は通行止めになっているが、様子を探るため敢えて下ってきた。そうしなければ、20日からは千代田湖からの舗装路が一部で通行止めになり、唯一の迂回路である「千軒平」経由の山道など、雪でとても当てにできないと思ったからだ。20日にはまた上に行かなければならない。
 雪は集落に入ると、路面には殆ど残っていなかった。高遠まで来て立ち寄った店では、軽トラの荷台に残った雪を見て驚いていた。下では「舞った程度」だと。
 
 家には昨日の昼ごろに着いた。ここでは暖房はエアコン、石油ストーブ、炬燵の世話になり、それから風呂に3回入った。野菜不足を補うため、サラダを丼一杯食べ、おでんを肴にビールと、日本酒がなかったのでウイスキーのお湯割りを飲んだ。量は、忘れ・た・い。
 今朝もすでに風呂に入り、その勢いで缶ビール500㏄を2本飲んでしまい、慌てた。自分をこんなふうにしかできないのは、どれも反動である。上にいれば、山の暮らしには他人の目がない分それなりの抑制、自己規制が働く。電気、灯油のことだって、それらの消費は気になる。
 しかし、里のここではそういう必要はない。全ては自分の勝手で済む。まあ、しばらくの間だけのことにするつもりだが。(11月19日記)

 里ではあまり身体を動かさないせいか、昨夜は10時ごろに寝て、今朝は4時半に起きた。6時間半の睡眠時間、寝不足のまま起きて風呂に入り、煎餅を齧りながらこの呟きを始めた。
 きょうは午前中に200㍑用の灯油タンクを満タンにして貰い、郵パックとかいう不便な郵便物を受領し、午後にはまた上に行く。
 一日、二日とここで過ごせばここが自分の居場所になり、上で暮らしていればそこがそこで不便ながらも自分の居場所になる。きょう、雪の状態が分からないまま山道を行くが、やはり面倒で気が重い。また雪になりそうだ。
 と言いつつしかし、あそこへ「帰る」という気持ちもある。待っていてくれる人がいるような気がして、気合を入れて張り切って行く。また上で。
 
 かんとさん、雪よりクマを怖れるなんて、あなたも都会人です。Oldさん、1月の初旬の案あり、です。
 本日はこの辺で。
 
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     ’23年「冬」(12)

2023年11月18日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 小屋の戸を叩く音で目が覚めた。しばらくすると、また催促するかのように音がする。起きていって戸を開けようとして驚いた、また雪が降っている。しかも、本格的な降り方だ。
 それに、外には人の姿はなく、積もった雪の上にも足跡はない。錯覚だと思うにしてはあまりにもはっきりとした音で、それも2度も聞いた。雪女なら夕方か夜が相場で、こんな朝っぱらには来ないだろう。
 
 天気予報は晴れの予報だったし、普段利用している雨量・雲量を見てもこの辺りは晴れていることになっている。12月ならまだしも11月の半ばで、すでに2回も降雪を経験したことなど過去にもなかった、と思う。
 試みに積雪量を計ったら5センチ以上ある。そして、雪はまだ止みそうにない。

 小屋に留まるべきか、里へ下るべきか揺れる。さすがにこのまま雪に閉じ込められるとは思わないが、ここで何もしないでいては気が引ける。昨日伐り倒した木の何本かは、きょう始末するつもりでいたがこの雪ではそれももう無理になった。
 そういう現実的な事情とは別に、もう誰も訪れようとしないこんな山の中で、一人だけで雪の降るのを眺めながらじっとしているのも、なかなか贅沢で捨てがたい気がする。
 
 雪が、労ってくれているのかも知れない。一応、牧守としての7か月の責任は明日で終わる、もう果たしたと言ってもいいだろう。
 しかし、誰もそんなことは知らないし、頓着しない。その証拠に、来週のキャンプの予約を下から知らせてきた。
 しかし、それでいい。権兵衛山が「アイツ、里へ下ったか」と思ってくれればいいし、言葉を交わすことのできない入笠の動物、林や森が気付いてくれれば、だんだんと人間離れが進んだ身にはそれで充分だ、満足できる。

 以下はこの呟きにも時々登場した「O澤さん」の通信。長年ご苦労様でした。速購入します、読者第1番にしてください。
   
  「ようやく、次の要領で(出版が)実現する運びになりました。
   書 名:御料局測量課長 神足勝記日記 ─林野測量の礎を築く─
   編著者:大澤覚(おおさわ・さとる)
   出版元:日本林業調査会(株)
   発行年月日:2023年12月15日
   規格等:A5判 本体約700頁 
   ISBN978-4-88965-276-5
   定 価:22,000円(本体20,000円+税)(送料無料)」
   
 本日はこの辺で。
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     ’23年「冬」(11)

2023年11月17日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 夕暮れの中を帰る。昨日も、また貴婦人の丘の前で、あの丘の上に拡がっていた冬空の色に惹かれ車を停めた。丁度、黄金の夕空が青空と雲の色調をさらに複雑に染め上げつつある時だった。懐かしい気持ちと、寂寞とした思いが同時に湧いてくる、そういう色だった。

 人気のないキャンプ場を一瞥し、小屋の中に入る。すぐにまた外に出て、忘れないうちに米を研ぐ。そうしておかなければ、そんな厄介なことをする気がしなくなるからで、まだ外の寒さが気にならないうちに面倒なことは全て済ませてしまう。
 水は相変わらず太いホースの先から勢いよく流れ出ている。よくもまあこれほどの水量が絶えることもなく確保されているものだと、天然の貯水力にいつもながら感動する。もっと寒くなっても、雪に覆われ山が長い眠りに入っても、ここだけは活動を止めない。さながら心臓のごと。

 冷え切った身体がそれを望むのだろう、風呂に入りたいと切実に思う。軟弱なそんな思いを振り切って、夕餉の支度をする。野菜不足を身体が訴えて来るからまたしても一人鍋。肉は使わない、ちくわを代用する。
 酒は2合、熱燗にした。この時季になると、ビールは冷蔵庫に入れておかなくても充分冷えているから有難い。
 
 それからは、同じ俳優ばかりが分別もなく出てくる下手糞なCMに腹を立てつつウクライナへ行き、アメリカへ行き、パレスチナへ行く。
 中小企業の経営者も、中にはおかしなのがいるが、従業員やその家族のことをそれなりに考えている。それに比べ、人類80億の生命に責任を負うはずの人たち、特異と言えばいいのか、あまりの能天気さ・・、われわれも含めてホモサピエンスの限界を、山の中で一人嘆じている。

 雨かと思えば雪、雪かと思えば雨、きょうはそんな天気の一日だろう。
 本日はこの辺で。

 
 
 
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