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山室の谷(南に向かって)
昨日は、この秋初めてと言ってもよいくらいの気持ちの良い秋日和だった。木漏れ日が降り注ぐ森の中は爽快で、落葉松や白樺の木々を透かしてやわらかな白い光の帯が幾筋にもなって射し込んでいた。あんな天気の良い日こそ、気ままに山の中で終日を過ごせたら、どんなに良かっただろう。昔のように肉や野菜、アルコールを持ち込み、近くの森で採ったキノコを使い、キノコ鍋を作るのだ。新米を飯盒で炊いて・・・。
新米といえば、昨日の早朝TKO君が持ってきてくれた。農業などとは縁遠かった彼が、身体の不調を押して一人で丹精を込めて作った、尊い米だ。それを味わうのだから、いつもより注意して米を研ぎ、炊き、酒を控え、炊き立ての新米特有の艶のある白米を、噛みしめかみしめ食べた。美味かった。
昨日は夜、もう一件の到来物があった。クロッカワと松茸である。KM子さん夫妻が届けてくれた。友人と秋は本当に有難い。今こうして呟きながらも、今夜の夕餉をあれこれと考えている。
サンマはそれほど好きな魚ではないが、やはり秋の味覚として、柚子と大根おろしで一度は食しておかねばなるまい。松茸は土瓶蒸し、クロッカワは薄く切って単に炭火で焼くだけ、それにいつも通り少量の醤油を振りかける、などなど、と。
あの人は「あはれ 秋風よ 情(こころ)あらば伝へよ」と、秋風に託して一人の夕餉を切なく歌った。「男ありて 今日の夕餉に ひとり 秋刀魚を食らひて 思ひにふける と」。同じ、男一人の夕餉、秋風がそうしてくれるなら伝えたい人、伝えたいことがないわけではない。しかし、ここまで消沈して、思いに耽るわけではない。新しい一升瓶を開け、ほろ苦い味のするクロッカワを肴にして、熱燗を含み、呑む。その後はどうなるか分からないが、きょう一日を満足して送ることだけは、きっとできるに違いない。
秋霖にもめげず、牛たちは草を食んでいる。時々動きをとめて、いかにも何かを考えるような様子を見せるのがおかしい。下牧までの幾日か、大きな青空の下に牛たちを置いてやりたいと、秋風よ、天に伝えてくれ。
秋風が旅に出ろと言ってませんか。小屋もキャンプ場も充分に余裕があります。FAXでも予約や問い合わせに対応できます。ご利用ください。入笠牧場の営業案内は「入笠牧場の山小屋&キャンプ場(1)」
「同(2)」をご覧ください。