朝のうち、囲い罠の中に1頭しかいないホルスは、3頭いる和牛の1頭にいやがらせを受けていた。それが午後になって、1頭の和牛とホルスが付かず離れずの距離で草を食んでいる。遠くからその2頭の様子を眺めていると、つい微笑ましくなる。そのうちに何を思ったか、和牛がホルスから離れて斜面を駆け下り、今は木の陰に隠れてしまった。ホルスは後を追わないで一心に草を食べている。
ところが、たった今の一行を呟く間に、ホルスの姿も草原から消えてしまった。和牛のいないのに気付いて、後を追ったのだろうか。囲い罠の全体が見えるところまで行ってみたら、ホルスを頭に4頭の牛が等間隔で横一列になって、少し傾斜のある草の中に頭だけ見せて、腹ばいになって埋もれていた。わずか1歳になるかならないかの牛たちである。昨日の大雨にも耐え、人間と比べたら、まだこの段階では牛の方が賢いかも知れない。
第1牧区の牛たちも全頭が元気で、合図のクラクションを聞き付けると、いつものように下方の草原から走り寄ってきた。
午後になってきょうはよく晴れた。第1牧区から下りてくる途中で1頭のチョウの死んでいるのを見付けた。「八月の石にすがりて」がすぐに思い出された。ただ、詩人はこんなチョウの変わり果てた姿を実際に目にしてから、あの有名な詩を創作したのだろうか。「八月の石にすがりて さち多き蝶ぞ、いま、息たゆる・・・」
初めてこの詩に出会ったのは20代前後だった。詩の中に使われている数々の印象的な語彙は様々な情景を彷彿とさせてくれたが、それらはフラッシュのように現れてはたちまち消えてしまい、ありきたりな解釈を当の詩人から拒否されているような気がした。
われも亦、
雪原に倒れふし、飢えにかげりて
青みし狼の目を、
しばし夢みむ。
小屋もキャンプ場も充分に余裕があります。FAXでも予約や問い合わせに対応できます。ご利用ください。入笠牧場の営業案内は「入笠牧場の山小屋&キャンプ場(1)」
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