スウェーデン音楽留学サバイバル日記 ~ニッケルハルパ(nyckelharpa)を学ぶ

スウェーデンの民族楽器ニッケルハルパを学ぶため留学。日々の生活を様々な視点からレポートします。

オーディション-その2

2007-06-11 23:17:14 | スウェーデン生活
さて、Zorn(オーディション)受けようと思ったのは3月。

この学校は試験がない。
悪い所を指摘・指導はしてくれるが向上心をつぶすような本音は言ってくれない。
成績は残るので評価が必要なときは発行するというのだけど、日本の内心書と同じで下手なことは
書かないのではないかと思う。

本場の国の、その道の人から、公正な判断・評価をもらいたかった。
Zornがその代わりになるか分からないけど、1年の留学を終えた頃に開催されるタイミングも
自分へのテストとして、ちょうど良いと思ったのだ。

それに、自分なりの解釈や表現も大事だけど、これが正しい伝統だといえるスタイルを身に着けたいとも思った。
日本で認知度の低いこの楽器、またはこのジャンルの音楽、望む望まざるに関係なく自分の言動に責任も感じる。
そういう正統派を勉強するにあたって、良い機会だ。

3月頃に、先生のディッテは根が正直で話を熱心に聞いてくれるので、まずディッテに相談した。
ここで「ぷぷぷ。何言ってるの?」という反応だったら受けるのやめようと思っていた。
でもディッテは「がんばれ!」と言ってくれた。

実はエスビョンに先に相談していた。
挑戦しても恥ずかしいレベルじゃないかな?と言うと「まずは弾いてみて。自分は別のオーディションで審査員とか
したことあるから、正直に言う」と言うではないか。
何でもいいから好きな曲弾いてみてと言われ、適当に弾いてみた。
コメントは言葉少なく、褒めもけなしもせず、私の癖を指摘すると直すよう言われた。
そして「受けてみる価値はある。受けるなら応援する」と言ってくれたのだ。

その翌日には、スタッフとしても学校に常駐しているソニアに選曲の相談をしに事務所をのぞいた。
選曲のコツは「その地方の典型的、かつシンプルな曲を選ぶ」こと。
難しい曲や有名であっても作曲された曲はさけたほうがいいらしい。
ウップランド地方にはエンゲルスカはないので、そういう選択肢も消える。
ショティシュは比較的新しい伝統なので、これも避けるのがベター。
「例えばこんな曲どう?」と楽器を取り出しながらソニア「今弾いたげるからMDを持ってきて」と言う。

結局、なかなか決めれず、最終的に決めたのは前日。
もっと弾いてと言われる場合の予備も含めて、全てAnders Sahlströmの曲にした。
Andersは故エリックのお父さん、ソニアのおじいちゃんにあたる。

さて、今年の場所はDegeberga。スコーネ地方。
北海道より北だけど、スウェーデンでは南の果ての地だ。

6/11
ウプサラへ出て、ストックホルムでのりかえる。
切符を車掌にみせると短期滞在の旅行者と思われたようで「ようこそ、スウェーデンへ!」とにっこり笑いかけてくれた。
なんだかウレシイ。
さらにHässelholmでKristianstad行きにのる。
ここまで約6時間。
Kristianstadに前泊することにした。
この街は、南部でヨーロッパの影響がつよいのか、ウップランド地方とはずいぶん建物の雰囲気が違う。
素朴さよりも重厚な石造りの街だ。

駅から2km離れたB&Bに泊まることにした。
電話で話した感じもアットホームな感じで良かった。

B&Bについて部屋のに入ると、ここも北欧風インテリアで心地よい。
明るい木目の床にシンプルモダンデザインのランプと椅子。
バストイレも清潔で広々している。
朝食はもちろんスウェーデン風。ハムや野菜のサンドイッチを自分で作るタイプ。
フレークや飲み物ももちろんある。

6/12
翌朝、チェックアウトして街をぶらつくのもいいけど、荷物が邪魔。
第一、本番で緊張したらどうしよう。
指ならしでもしてたほうが落ち着くかも。
そう思い、チェックアウト後、裏庭で練習させてもらった。
掃除中のスタッフが手をやすめ、コーヒーとタバコ片手に離れたところから聞いていた。
私が一通り弾いて満足すると遠くから拍手してくれた。
その人はフルートとピアノを弾くそう。
「I can't imagine a life without music」(音楽なしの人生なんてありえない)
彼女はとても音楽が好きなのだと真剣な表情で語ってくれた。

さて、会場はさらにここからバスにのります。
牧草広がるのどかな田舎道を走るとDegeberga着。
さらに15分、てくてくと歩きます。

会場は普段はキャンプ場だ。
着くとさっそく受付。フレンドリーな2人にイチゴやフルーツをすすめられながら手続きをした。
名前や住所の確認、そして今日弾く曲の名前を言う。
(名前って無いのだけどね。歌ってみせると「それAndersなの?Ericじゃない?」さすがツッコミが入る…
でも孫にあたるソニアに聞いたのだからマチガイない)

「日本人って初めて?」
多分そうだろうと思ったけど、一応きいてみた。
すると「え?いっぱい受けにくるよ。たっくさん」と言うではないか。
おかしいな、そんな「たくさん」って本当かな?
この団体、ダンスがメイン。
ダンスのメダルの方は日本人が毎年のように受けているって聞いたからごっちゃになっているのかもしれない。

さてさて練習したい人は、受付向かいのデスクでワゴンを予約。
案内されると中には、ペットボトルの水、キャンディー、イチゴがおいている。
さっそく中で弾いた。
エスビョンに言われていた。本番用の曲は練習するなと。
弾き過ぎないよう本番の数日前、本番直前と弾かないほうがいいというのだ。
そのいいつけは守れず、1回だけ弾いた。
後はいろんな地方の好きな曲を好きに弾いた。

時間が近づいてきた。
ダメだ、手と足の力が入らない。これは体が緊張してきいる証拠だ。
歌を歌って見たけど歌い終わったとたんお腹の力も抜けてしまう。
「緊張する!緊張する!」と携帯で日本に電話したら、夜中で迷惑がられてしまった。

ヤバイなぁ!と陸上選手のようにダーっとその場でモモ上げをしてみた。
体に少しだけ血がめぐってくる。
すると長身でエレガントで美しい女性が私の名前を呼びにきた。
「あら、こんにちは」といいそうになった。
エリン(Elin)だ。
つい先日、Edward&Elinの演奏をビデオでみて顔を覚えていて知り合いのような気分になってしまったのだ。
いや、相当、脳みそも緊張でおかしくなったらしい。

面接などで緊張はしてもにっこり笑って隠せる。
でも、弦楽器はそうはいかない。
力が入ると固い演奏になる。力を抜くと振るえが音に伝わる。

すたすたと早足に廊下を歩くエリンの後を追いかけ、ドアをくぐるともう一枚ドアを開ける。

中には6人くらい、審査員が一列にならんでいる。
逆光で顔ははっきりと見えない。
エスビョンに言われたとおり、部屋の中央にマイクが設置されている。
これはvisarkivetの保存記録用となる。
部屋の横にいる人がおそらくarkivetの人だ。
エリンは部屋の後ろに座った。後ろには、さらにもう一人いる気配。
審査員に見つめられ、振り向く余裕はない。

まずは、テンションを下げようと自己紹介など雑談をした。
審査員も緊張をほぐそうとフレンドリーだと聞いていたとおり、穏やかかつにこやかだ。
「日本人が受けるのは初めてだから写真をとっていいか」と聞かれた。
やっぱり初めてなんだ。
そして「いつでも好きなときに弾き初めてください」と。

頭の中で一曲目の出だしをイメージした。
このメロディー、この装飾音、この雰囲気、このテンポ…

よし!と息を吸い込み弾きはじめる。

「最初はもったいぶってゆっくりと、それからテンポアップ。自信ありげにみせるテクだから」とエスビョンの
アドバイスを思い出す。

ちょっとぎこちないな、と弾きながら思った。やはり緊張のせいか…
すると、途中で曲を忘れてしまった。
こんなこと今までなかったのに。「もう一度ひきます」といい
弾きはじめた。すると同じ箇所でまた忘れた。
えー?どんな曲だっけ?すると、審査員の一人が歌ってくれた。
それでも、思い出せない。
考えようにも頭の中は真っ白。
「こんなこと今までなかったんですけど」と言い、頭を抱え込んでしまった。
このままで帰れるか!ハラがたったせいか頭がまわり始めた。
思い出した!

人は窮地に追い込まれると、パニックになる人と開き直る人がいる。
その時の私は開きなおりだった。
思い出したのがうれしく、心から気持ちよく弾いた。
次から次へと軽やかな音が出る。今までで最高の演奏だ。
審査員は演奏中も写真をぱちぱちとっている。
2曲目、3曲目も無事に弾き終えると、さらに要求されると思っていた。
これは友人や先生みんなに言われていたから。
でも、雑談や度忘れで時間がくったのか、私はこれで終りだった。

その後、18時に紙がはりだされる。
のぞいた瞬間飛び上がって叫び声をあげ飛び出して言った子がいた。

「何もとれなくても落ち込まないように。Zornはそんな簡単なものじゃないのだから」とエスビョンに言われていた。
それでも期待と不安の中、私もおそるおそるのぞいた。
あった!名前がある(ネットで12日の結果はこちら)。
ほっとしたというのが正直な感想。
すると側にいた人が「Täbyであなたのこと見かけて、覚えている」という女性がぎゅっと抱きしめて
「おめでとう!」と言ってくれた。
審査員も部屋から出てきて「おめでとう!」と言ってくれた。
これから、銀をとるまで、長い道のりのはじまりだ!

ネットで別の日に参加した友人達の発表をみた。
16歳でdiplomをとっていた友人Sは、今回は銅メダル。
音大を中退し先生をしてからこの学校にやってきたKも初参加でdiplom取得(地方はBoda)。
ハーバード博士課程のアメリカ人Dは、5回目の挑戦で銀!(地方はハリエダーレンで参加)
外国人初のリクスペルマンの登場だ!
みんなおめでとう!

帰りは寝台列車でストックホルムへ。女性用の部屋をネットで選んでいた。
ニッケルハルパとベッドに横たわると、割り箸のように寝るしかスペースがない。
でも、割り箸だって、縦か横向きかくらいの選択肢はある。
柵もなにもない上中下の一番上のベッドで落ちたら死ぬんじゃないかと思いながらもぐっすり寝た。
寝心地がよかったかどうかなんて覚えていない。
気がついたら、車掌さんが「6時です!」と起こしにきたのだ。
7時まで停車するので列車内にいて良いと言う。
それじゃあと、2度寝しようとすると、みんな他のお客さん達は出て言ってしまった。
結局、一人残されたのが嫌で出てしまった。
お店が開く時間まで、ストックホルムの駅で目を開けたまま寝るかのように体も思考も完全ストップしたまま2時間ほど過ごした。

さあ!今日はセミナーだ!
つづく
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« オーディション-その1 | トップ | Harjedalspipan »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

スウェーデン生活」カテゴリの最新記事