ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅             逮捕・・・11

2012-10-28 | 1部1章 逮捕
私服の執務室の中、奴はまた机の上に粉を置き手で
「やれ」 という合図をした。
首に巻いたタオルで鼻をかみ出し左右の鼻の穴に粉を吸い込んだ。粉が置いてあった紙の上を舐めた指でなぞり舐めた。
 また2人の日本人の面会があった。スーツを着た男性とインド服を着た女性だった。外務省を通してぼくのパスポート記載の住所確認と東京にあるぼくの銀行口座の確認をしたようだ。裁判と生活に必要な費用の送金は大使館口座を使用しても良いという話だったように思う。面会が終わると警察署の前からオート力車に乗って街を走った。眩しかった。ぼくが自由に歩いていた街がそこにあった。金網を張ったオンボロの大型バスが何台も並んで停車している、その横をぼくを乗せたオート力車が大きな建物の奥へ進んで行った。私服に連れられ階段を上ったり下ったり、幾つかの部屋に行きその都度待たされた。両手の平と足裏にローラーで真黒い墨を塗られ白い紙に手足の紋形を押した。建物から一旦外へ出たとき水売りの荷車の前で私服は
「水を飲むか?」 とぼくに聞いた。
頷くと私服は小銭を払いコップ一杯の水をぼくに渡した。2日間ぼくが口にした物はその一杯の水だけであった。ぼくはパールガンジ警察署へ戻るものと思っていたが、その時点でデリー中央刑務所への収監手続きは終っていた。ぼくに与えたコップ一杯の水は私服が示したぼくへの最後の情けだったのだろうか、巨大なデリー中央刑務所へぼくを送り込んだ奴の。
 建物の中庭を歩いて鉄格子の並んだひとつの鉄扉の前で、紙切れと同時にぼくは裁判所警務官に引き渡された。放り込まれた留置場には20人程のインド人がたむろし、大声で喋ったりフロア―に食べ物を広げ仲間と食べていた。その間も次々とインド人達が入れられてきた。留置場内は座っていられない程のインド人で一杯になった。すると何か合図でもあるのか、彼等は鉄扉に殺到し押し合いを始めた。扉が開けられ彼等は吐き出されていった。留置場に静けさが戻り片隅の壁に背を凭れ掛け座り込んだ。次に何が起こるのか解かりもしない時間をなされるままに待っていた。喧騒が何度か終わって夕暮れの風の気配を感じ始めたとき、最後に残されていたぼくの名前が呼ばれた。日中見た金網を張ったオンボロバスの後部に立ち、オールドデリー裁判所ティスハザールを出発した。裁判所のゲートを出て右折し少し行くと赤や黄色の沢山のピラミットが目に入った。インドの食生活に欠かせないスパイス街だ。夕食の為ターメリック、ガラムマサラを買い求める自由な人々がいた。力車、大八車、のんびり歩く牛、井戸水で水遊びをし身体を洗う子供達。チャイ屋の長椅子に座りビリを吸うインド人。バス停の近くではスピードを落したバスから人々が吐き出され、人々が飛び乗った。ペプシコーラの看板のあるコールド・ドリンクショップ。人が群れた映画館。ベジタブル・バザールで買い物をする人々。赤信号で停止したバスの前を歩いていく自由な人々。

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