ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅          アシアナ(医療監房)・・・・・12

2013-01-17 | 2章 デリー中央第4刑務所アシアナ
 

 アシアナに収容されて数日が過ぎた。朝のティーが終わって前庭の掃除を手伝っていると事務官からメイン・ゲートに行けと指示された。アシアナのゲートの中から外を見たことはあるが出るのは初めてだ。ゲート前の堀には橋が架けてあり下は小さな水の流れがあった。門を出ると左右に延びる一本道、どの方向がメイン・ゲートなのか分からず戻ろうとすると刑務官が手振りで道を教えてくれた。どうしてメイン・ゲートに行かなければならないのか不安があった。警察に逮捕され刑務所に入った経験は今までない、パールガンジ警察署での取調べは2日間だけでその夜デリー刑務所に護送された。本格的な厳しい取調べはここで行われるのだろうか。そんなことを考えながら歩いて行くと第4刑務所のセンター前広場に出た。大きな鉄扉の左端下に潜り戸がありその前に立ち扉を叩いた。覗き窓が開く
「ジャパニーだ」と言うと直ぐに潜り戸が開けられた。
中に入ったぼくに刑務官は一つの通路を指して「チョロ」と言った。
通路を進むと別の刑務官が中に入れと顎で合図をした。薄暗い部屋の中に入ると前面に金網が見える、注意深く見るとそれは床から天井まで鉄格子に張り付けてあった。警戒しながら部屋全体の状況を判断しょうとしたとき左の方に人の気配を感じた。小さな声で
「トミー」とぼくの名を呼ぶ、初めて聞く声ではない聞き慣れた声だ。声の方に目を向けた。声は少しずつ大きくなり
「トミー、トミー、トミー」
とぼくの名を呼びながら近づいて来るのが分かった。
「二ナ」
そう言ったきりぼくは言葉を失った。二ナの面会だった。1ヤードを隔てた二重の金網の向こう、ニナは身体をあずけた金網を両手で握っていた。涙が頬に流れ
「何故、どうしてなのトミー」
「どうして、どうして、分からないわ」
「二ナ、ぼくの事は心配するな。二度とここへ来てはいけない。君の事は何も喋ってはいない」
二ナにとってぼくとの面会は非常に危険な行為である。ジャンキー・ニナ、ぼくの大切なガールフレンド。

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