ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅             逮捕・・・10

2012-09-14 | 1部1章 逮捕
それをやろうとするとガクガクと震えが来た。手も、顎から頭も禁断者特有の震えだ。紙の一部を破り細いパイプを作ろうと焦る。垂れた鼻水を袖で拭い、粉を入れようとしたが鼻が詰まって上手く吸えない、何度もやった。パイプの元が鼻水に濡れふやける。その部分を破りまた吸った。息苦しくなって吐いた息で粉の一部を吹き散らかしてしまった。ずるずると粉の付いた鼻水を飲み込む。粉が鼻の粘膜を通して脳に作用していったのだろう、息が通るようになった。注意深く粉を吸い込んだ。吹き散った少量の粉は舐めた指の唾液に付け舐めた。数分後、全身にエネルギーが注入され不安が薄らいだ。ほっと落着きを感じ始めた時、奴がついて来いと言ってぼくを別室へ連れていった。ドアーを開けたテーブルの向こう側に2人の日本人がソファーに座っていた。向かい合うようにしてぼくがソファーに座ると私服はドアーを閉め外へ出て行った。どういう風に話が始まったのか、その人たちはどういう資格を持って面会に来たのか、最初ぼくには理解出来なかった。彼らとどのくらいの時間、何について話したのか心に残ったものはなかった。ただ次の言葉だけは今日に至るも忘れる事が出来ない。
「あなたのケースはミニマムで10年の刑に相当します。10年の刑ですがお金があれば良い弁護士に弁護を依頼する事が出来ます。そうすれば少しは刑が短くなるかもしれません。希望を持ってがんばって下さい」 
彼らは大使館員であることをぼくに告げた筈だ。面会中、私服が呼ばれぼくの黒い手帳を持って来た。必要な内容を日本人が手帳に書き写している場面の記憶が残っている。 
1日目の取調べが終わり1階の薄暗い留置場に戻された。昼も夜も食事や飲み物の支給はなかった。空腹感もなかった。2人のインド人がぼくが作っていた寝場所で横になり小声で話をしていたがぼくを見て一瞬黙り込んだ。黒い塊から毛布を引き摺り出し乱暴に寝床を作った。重い疲労感に蹲るように横になり、私服がくれた粉の余韻にすがり付いていた。明日の朝、再び始まる禁断の苦しみへの恐怖感はあった、だが今夜は少し眠れるだろう。
 激しい禁断症状に苦しみながらぼくは2日目の取調べを受けた。フロアーに座らされ壁と長椅子にぐったりと凭れ掛かり遠くなるような時間に耐えていた。許可なしに自分の意志で動く事は出来ない。そんなぼくを奴らは弄んだ。ぼくのバックパックからウオークマン、スピーカー、テープ、時計などを取り出した。これは何だどうして使うのか、奴らはにやにや笑いながら説明をぼくに強要した。小型バックからリング、ストーン、ネックレスなどを我先に争って奴らは取り合った。どうでも良かった。1人にして欲しかった。

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