ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅             逮捕・・・9

2012-09-10 | 1部1章 逮捕
何時頃なのか時間の感覚はない。ただ廊下を動く気配が多くなった。朝になり署内の勤務が始まっているのかもしれない。1人になり色んな事を考えていた。今日のフライトタイムは10時だ、乗れるのだろうか、もし乗れたとしても粉なしでカトマンズに戻ってどうする、やっと手に入れた120gの粉を没収されて。天井の一点を見続けながらどうしても、どんな方法を使ってでもここから逃げ出さなければならない。それ以外生きている理由は何もない。そんな妄想に耽っていた時、昨夜の私服がやって来た。様子を見に来たのだろうか、少し経ってから鉄格子越しの廊下にティーとトーストが置かれた。
「ジャパニー、ティー」
ちらっと見ただけで手が出ない。禁断の始まりで全く食欲はない。暫らくして留置場の外に出され二階の取調べ室へ連れて行かれた。机の横のフロアーに座らされ壁に凭れ掛かっていた。粉がない以上どうなろうと良い事など一つもない。私服が来て取調べが始まった。
どこで、誰からスタッフを買ったのか。目的は。二ナ、フレッドの名前、隠れ家を話すことは出来ない。私服の調べの中心は新たなプッシャーの特定と逮捕にあった。
「誰から、売った奴は誰だ」
リンという女性からコンタクトを取ってきた。バザールの裏路地をぐるぐる回らされたので場所の特定は出来ない。
「目的は?」
「パーソナル・ユースだ」
身体がだるく、もうどうでも良かった。横の長椅子に延ばした右腕に頭を乗せ凭れ掛かっていた。とろんとした目の先でぼくの指から指輪が抜かれていたが抵抗する気力もなかった。テーブルの上の書面にサインをしろと言う。何枚にサインをしたのか何の書類なのか、確かめようにも視線が定まらず身体は動かなかった。   
ドアにノックがあり私服は出て行った。戻って来ると私服は自分の執務室にぼくを連れて行き、中にいた警察官を追い出しドアに鍵を掛けた。フロアーに座り込み見るともなく奴の動きを目が追っていた。鍵の掛かった机の引き出しから紙包みを取り出し机の上に置き、同時に一枚の白い紙もそこに置いた。その包みは昨夜ぼくから押収したスタッフだった。何をしようというのか奴は。スニッフ一回分としては多い量のスタッフが白い紙の上に置かれた。
「早くやれ」
粉への欲望がそう聞き取らせた。自分の耳を疑った。ぎょろと眼をむいて奴の顔を見た。もう一度
「早くやれ」
コメント
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