木下恵介監督は、阪妻の事を小さい頃から観ていて、いつか一緒に仕事がしたいと熱望していた。阪妻は、木下という監督の才能に惹かれ、遂に二人は仕事を一緒にする事になる。それが『破れ太鼓』である。木下恵介が脚本を書き、会社を通して、阪妻に渡した。しかしながら、一ヶ月待っても阪妻からの返事は来ない。痺れを切らした木下恵介は、会社に阪妻に会わしてくれる様に強く頼む。こうして、二人は直接、会うことになった。そこで阪妻が言ったのは、「この主人公の人間的な厚みがでませんかねえ」と遠慮がちに言ったという。そこで、木下恵介は脚本を持って帰り、あるシーンを書き加えて、京都に送った。阪妻は撮影所に現われた。撮影が始まった。あるシーンとは、「会社を倒産させた阪妻演じる主人公が泣きながら、カレーライスを食べ、息子の弾く、主人公を揶揄する曲を聴く」という有名なシーンである。阪妻は木下に言ったそうだ。「私が考えていたのとは違う直しでしたが、数段素晴らしいホンを頂き有り難うございました」と。才能と才能のぶつかり合い。それが極上の素晴らしいものを生むのだと僕は思う。











