今日も元気で頑張るニャン

家族になった保護猫たちの日常を綴りながら、ノラ猫たちとの共存を模索するブログです。

シリーズ「ノラと家猫と」 その3 ノラへの道(後編)

2018年06月22日 | シリーズ完結:大脱走、「ノラと家猫と」
~本記事は全5話からなるシリーズです~

その3(前編)より続く;
※本記事の写真はいずれも脱走前のものです。

Bさんは自分同様第1期の入居者で、町のイベントにも大変協力的な話のわかる気さくな人。士のつく生業でまだ現役、仕事も忙しいらしい。近年は殆ど顔を合わすこともなくなっていた。奥様曰く、「苦情じゃないのよ、相談に来たの。もう少し何とかならないかなと思って。」 聞けば奥様は引越しまで考えていると言う。数年前に庭をリフォームし、そのときに植えた数種の名品ツルバラがいい按配で咲き始めていた。

「自分は殆どいないし気にならないけど、妻がね。」とBさんは控えめに言った。明らかに以前より困った状況なのに、トーンが下がっている。自分の出した回覧で、この問題を当家だけに押し付けてはいけないという雰囲気がこの街に広がったのかもしれない。それでBさんも言いづらくなった・・、そんな風に感じられた。 でも、それは自分の本意ではなかった。たとえ自分が吊るし上げ糾弾されたとしても、住民が本音で腹を割って話し合うことこそ重要だと思っていたのです。他ならぬノラたちのために。

確かにノラの問題は住民に共通した問題だけど、B婦人の悩みに関して言えば、やはり自分が原因なのだと思った。そもそも自分がこの家に住んでいなければ、ソトチビやみうやリン一家を家裏でお世話しなければ、灰白くんや白黄くんが現れることもなかっただろう。

B夫妻にはいきさつをありのままに話しました。奥様も自分が灰白、白黄くんを追い払っているところを何度か目にして、それだけではうまくいかないと思ったらしい。結局自分は、再び2匹を満腹にして不安を一掃する作戦を提案するしかなかった。そして、なるべく早く保護する。灰白くんだけでも保護すれば、騒音問題は解決するはずだと。

その翌日からは作戦を変えざるを得なかった。灰白くんと白黄くんには食事を潤沢に出しておかわりも直ぐにあげた。2匹は安心し、家裏の棚の上でくつろぐ灰白くんの姿が戻ってきた。白黄くんは、当家の横にある古い縁台を根城にしているようだった。つまり、クウが勝手口に近づく道は完全に塞がれた。

一方リビング側の3ヶ所にクウの好きだったレトルトを吊るし、リビングと和室(保護部屋)の前にカリカリの置き餌を出した。5日目となってはクウもお腹が空いているはずだ。あとは昨夜勝手口から見かけた猫がクウだと信じて、ひたすら待つしかなかった。

               
             猫とは思えないほどスタイルがいいクウ

夕方になって、窓際で寝ていたちび太が何かに反応した。クククククッと鳴き続けるちび太。しかし自分には何も見えない。そのうちキーもちび太に合流した。キーはリビングと和室を行ったり来たりして執拗に網戸の外を眺めた。鳴き続ける2匹。その先に、クウが現れた。細い体が一層細くなって眼光鋭くなっていた。クウはゆっくりと近づいて置き餌のカリカリを食べ始めた。そして、懐かしそうな目で網戸の中にいる2匹に目をやった。

しかし自分が玄関から出て行くと、クウは逃げていった。しまったと思ったときは既に遅し。でもクウがリビング側に現れたことは何とも心強かった。置き餌をたっぷりと継ぎ足してまたのクウの来訪を待ったのです。クウはその後日暮れ前にもう一度現れ、置き餌をしっかりと食べて行った。

それから裏猫2匹と中猫5匹の食事やトイレの世話をして、またクウお迎えドア開け作戦を決行した。今度はリビングの扉にもしっかりと隙間を作った。と、20時を少し過ぎた頃、クウが突然リビングから入って来たのです。やったという気持ちと慌てる気持ちと緊張と。クウは慣れた感じでリビングから廊下を通って和室方面へと消えた。そのとき、少し開いた勝手口を見て愕然とした。何を考えたのか、いつものように2ヶ所を開けていたのでした。勝手口から目を離さずに、慌ててリビングのドアを閉める。が、なかなか閉まらない。右窓なんだか左窓なんだか、それに網戸はどこだ。かなり慌てていた。ようやく窓を閉めたとき、駐車場の伸縮門扉がガラガラと開く音がした。妻が帰って来たのだ。その瞬間、何かが飛ぶように勝手口を通り抜けた。やばい! 慌てて勝手口から外を見るとクウがこっちを見ていたが、すぐさま飛ぶように消えて行った。同時に、家横にいた白黄くんが追って行った。

千載一遇のチャンスを逃がしたと思った。この結果をどう受け止めればいいのか。お腹を空かせていたはずのクウがとりあえず食べ物にありつけ、リビングからの入り方を覚えたことをよしとするか、慎重なクウがこの苦い経験でわが家から遠ざかってしまうのか。結局その晩も、さらには次の日も、クウは現れなかった。置き餌は時折なくなったが、白黄くんや灰白くんまでリビング側で見かけるようになって、クウ存在の確証にはならなかった。そして、その次の日もクウは現れなかったのです。

               
          保護者や同居猫に囲まれて"社会化訓練"中だった

キーとクウが風呂場から脱走して1週間、こんなことになるとは。この間、店に出放しの妻も毎夜ドア明け作戦で見張りを続けていた自分も、体力の限界でした。もう普通の生活に戻ろう。クウはきっとまた戻ってくる。自分にそう言い聞かせたが、悔しさやら切なさやら後悔やらで押し潰されそうだった。クウとの楽しいひとときが頭に浮かんでは消えた。キーにも申し訳ない気持ちでいっぱいになった。たかが保護猫、たかがペット、でも、家出されればこんな思いをするのだ。自分は過去記事の中で、無力な猫たちのことを思うあまりに保護者への配慮に欠けていたとつくづく思った。

妻は言った、「大丈夫だよ。きっとどこかでしたたかに生きていくよ。」 しかし灰白くんよりもまだ人馴れしていないクウに、そんな技量があるとも思えない。でも、我々にはもうなすべきことがないのだ。信じるのみ。その言葉は力強くもあるがはかなくもある。自分は最大限の無力感に襲われていたのでした。そしてもうひとつ。ひと月前のクウの脱走のときに決意したように、もし戻らなければこのブログの筆を置く。その時期も迫っていた。ただ、今回の顛末だけはしっかりと書き留めておこうと思いました。少しでも、自分と志を同じくする人たちのお役に立てればと。こんな体たらくな経験が役に立てばの話ですが。

翌朝、妻を家に残して久々の店へと向かいました。妻には何も言わなかった。責任を感じていたのだろう。文句のひとつも言わずに1週間店に出続けて、朝から夜まで働いた妻にはただただ、しっかりと休養をとってほしかった。

               
        3匹一緒は見納め?(手前クウ、奥にキー、箱中にちび太)


その4 「奇跡の絆」へと続きます。

シリーズ「ノラと家猫と」
その1 灰白くん、白黄くんと地域問題(前編) 2018.6.13
その1 灰白くん、白黄くんと地域問題(後編) 2018.6.15
その2 事件勃発・高齢保護者の限界      2018.6.17
その3 ノラへの道(前編)             2018.6.20

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« シリーズ「ノラと家猫と」 ... | トップ | シリーズ「ノラと家猫と」 そ... »

コメントを投稿

シリーズ完結:大脱走、「ノラと家猫と」」カテゴリの最新記事