長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ゲーム・オブ・スローンズ シーズン8』

2019-06-23 | 海外ドラマ(け)

※このレビューは物語の結末に触れています※

※前シーズンのレビューはこちら※


ついに最終章である。シーズン6放映時から見始めた僕なんてにわかもいい所だが、それでも感無量だ。今回もいくつかのトピックに分けてレビューしていこう。


【オール・ザ・キングスメン】

ウィンターフェルにデナーリス・ターガリエンが到着した。ドスラク騎馬隊、アンサリードの大軍団とドラゴン2頭を引き連れた彼女の威容は北部の人々を圧倒し、かつてリカード・スタークを焼き殺した狂王を彷彿とさせる。ターガリエンはスタークにとっていわば仇敵。迫りくる死者の軍勢を前にした同盟とはいえ、ジョンの独断は「売国」とも受け取られかねない。

何かと駆け足な展開が批判された前シーズンから一転、今シーズンは『ゲーム・オブ・スローンズ』らしい謀略が張り巡らされる。ジョンは懐柔されてもサンサはデナーリスへの強硬な姿勢を崩さない。小指からあらゆる権謀術数を学んだ彼女は北部の優位性を誇示するつもりだ。

方やデナーリス陣営の文官ティリオンとヴァリスは既に”戦後”を見据えていた。北部との同盟を維持するためにも、恋仲であるジョンとデナーリスの2人で七王国を統治するのが良策ではないか。

ここにシーズン6で明かされたジョンの出生の秘密~ターガリエン家の嫡男であり、鉄の玉座の正当後継者である事実が波紋を呼んでいく。

かつて(暴政の)車輪を砕くと宣言し、既得権益を破壊してきたデナーリスも、ウェスタロスでは武力で押し入ってきた過激な革命者である。S7E5、ラニスター軍に勝利したデナーリスは捕縛したタリー家の当主(そう、サムの父だ)と嫡男を焼き殺す。奴隷解放者の顔と冷酷非道な征服者の顔を持つデナーリス、方や温厚篤実、戦の英雄であるジョン・スノウでは一体どちらが玉座にふさわしいのか?シリーズ最大の合戦シーンばかりが注目された最終シーズンだが、それぞれの思惑が交錯する権謀術数も重要な見所の1つである。惜しむらくはヴァリスが最後まで活かされなかった事だろうか。理想と謀略で生きてきた彼の肝が据わればティリオンはおろか、誰も太刀打ちできなかっただろう。演じるコンリース・ヒルも不発で終わったシーズン8の脚本に不満を漏らしていた。


【The Ides of March】

ジョンの正体を知ったデナーリスは自身の正当性が脅かされるのではと不安を抱き、S8でその孤立は深まっていく。世にはびこる男性主義を破壊し、時代のアイコンとも言える存在になった彼女がこうも無残に権力の座に狂ってしまうのか?上陸時はウェスタロス最強とも思えた軍隊もサーセイ&ユーロン連合の遊撃に苦戦続きだ。

 第5話、ついに事件は起きる。太陽を背にしたドロゴンの急襲でユーロン船団を破壊したデナーリスはキングスランディングの城壁に取り付いた。対ドラゴン用の超級弩弓スコーピオンは大型化されており、急旋回を繰り返すドロゴンのスピードについていけない。デナーリスはこの電撃戦でラニスター軍を圧倒する。城門の前に展開したサーセイ肝いりの黄金兵団も為す術なしだ。間髪おかずジョン、グレイワームら率いる制圧部隊が市内に突入、ラニスター家の都市守備隊は降伏した。

鳴り響く降伏の鐘を聞きながらデナーリスは市内を見下ろす。呆気ない。一体、これまでの苦難は何だったのか。何のためにジョラーやミッサンディは死んだのか。民衆は恐怖に逃げ惑うばかりで、真の統治者の帰還を喜ぶ声はどこにもない。デナーリスの中に憤怒の念が沸く。彼女はドロゴンを駆り、そしてついに王都を火に染めるのである。

彼女の蛮行をきっかけに暴徒化したアンサリード、北部連合の兵士達による大虐殺が始まる。雪崩を打って市内に押し寄せる殺戮者の群れはS8E3でウィンターフェルに押し寄せた死者の軍勢を彷彿させる。ただ殺意だけを持って蛮行を繰り広げる人間達は亡者と何ら変わりないではないか。人類はいとも簡単に暴力的になり、その残忍さを露わにするのか。第3話と第5話が対になる事で原作者ジョージ・R・R・マーティンのニヒリズムが浮かび上がった。さらにはこの都市崩壊のスペクタクルが9.11や原爆を想起させるリアリズムで描かれた衝撃は凄まじく、R15の暴力描写が売りであり、時にカタルシスをもたらしてきた本作においていかなる暴力にも正義がない事を知らしめ傑出した。監督は傑作回S6E9『落とし子の戦い』やシリーズ最長のアクション回S8E3『長い夜』を手掛けたミゲル・サポチニクだ。

↑ハウンドとマウンテンの兄弟対決にもついに決着がつく


【キック・アス】

デナーリスの転落をミソジスト的文脈で批判する人もいるが、それは早計だろう。多くの女性キャラクター達の扱いを見れば明らかだ。無骨なハウンドすら君主へと成長したサンサへ称賛の声を送る。ただただ状況に流されるだけのかよわい少女は多くの苦難を超え、デナーリス陣営とも丁々発止のやり取りを繰り広げる頼もしいウィンターフェル女公となった。

 そしてお転婆な妹アリアは暗殺者の修行を重ね、ついに世界を救う英雄となる。S2でメリサンドルは既に予言していた。アリアが「青い目の者を殺す」と。S8E3、死者の軍勢によって多くの者が命を落とす中、亡き師匠シリオの言葉「Not Today」を胸に、アリアはヴァリリアンダガーを夜王の身体に突き刺す(ハウンドの教え通り、鎧の一番薄い部分をちゃんと刺している)。そう、彼女こそThe Cohsen Oneだったのだ!シリーズ開始当初は子役だったソフィー・ターナー、メイジー・ウィリアムズがここまでカリスマチックに成長するなんて誰が想像出来ただろうか。『ゲーム・オブ・スローンズ』の成功の1つは彼女ら演技陣が年月を経てその才能を開花させた事だ。

タースのブライエニーに扮したグウェンドリン・クリスティーも劣らず見せ場たっぷりだ。S8E2、死者の軍勢との決戦前夜、暖を取りに集まった戦士達がおもむろに語り合う。「女は騎士になれない」という慣習を聞いたトアマンドが「伝統なんてクソだ」と毒づくと(今シーズンでは本当に愛すべき場面ばかりである)、ジェイミー・ラニスターが立ち上がった。「騎士は騎士を叙任することができる」。女だてらに剣を取り、女だてらにキングスガードも務めた。女だてらに浪人ともなった。誰よりも気高い騎士道精神を持っているのに、それでも”女だから”と本物の騎士と認められてこなかった。己を律し、耐え続けてきた彼女が騎士の称号を得た時、初めて見せる晴れ晴れしい笑顔を見よ。ウェスタロスでは願い、追い続ければ誰だって夢は叶うのだ!


 

【アベンジャーズ・アッセンブル】

この春、映画館では11年越しのシリーズ完結編(あくまでMCUにおけるフェーズ3の終結に過ぎない)である『アベンジャーズ/エンドゲーム』が、そしてTVでは『ゲーム・オブ・スローンズ最終章』がエンターテイメント界を席巻した。破格のスケールを持つ両作品の最も重要な共通点が長い年月を経て観客が培った物語への没入よる”ファンダム”ではないだろうか。ネット上には考察があふれ、『GOT』に到っては放送直後から公式がWEB上にばんばんネタバレを投下する事で世界的なミームを展開した。大河ドラマ話法の2作品が同様の愛され方で世界制覇をした事は2019年の重要なモーメントとして記憶しておくべきだろう。

 『エンドゲーム』では前半約2時間、ほぼアクションがなく豪華スターの掛け合いで映画が展開する事に驚かされたが、この”キャラ萌”で物語が大きく駆動力を得ていくフィーリングは『GOT』S8ではとりわけE1、E2が近い。キャラクター達が一同に会した飲み会シーンはこちらも末席に着かせてもらったような楽しさがあり、年月を経て培った行間があるからこそ、それぞれのドラマに深みが増す。クライマックスへ向けてドラマが最高の熟成状態にあっただけに話数を削らず、しっかり1クールやってくれても良かったのではないか、という気持ちは残った。

↑メリサンドルもついに光の王の加護を知る


【イントゥ・ザ・ウエスト】

シーズン8の仕上がりに不満を持ったファンが再撮影を求めて署名活動を行い、100万筆集まった事がニュースになっている。大概にしてほしい。昨今、SNSによってファンとクリエイターの距離は近付いたが、仕上がりが気に入らないアンチによるネガティブキャンペーンも増えた。望んだ結末にならない失望感は理解できなくもないが、芸術作品に対する敬意を失した態度は容認できない。一方で製作側もSNSを試験場にしているのが実態であり、最近も『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』の実写映画版が予告編のリアクションを受けてCGの手直しを公式発表した。SNS時代における映画製作は過渡期にある。


 終幕、空席となった権力の座を決めるため、ウェスタロスの諸侯が集う。賢明なサムは民主的選挙を求めるがそんな近代国家には程遠く、権力階級の投票によって選出が行われる。ティリオンは訴える。この決定は打算かもしれない。それでも利害、理念を超えて人を動かすのが物語の力であり、全てを知る三つ目の烏ブラン・スタークこそ王座にふさわしい者であると。人は人生に寄り添う”終わりなき物語”を求め、それは人々を結束させる力を持つ。MCU、GOTが空前の大ヒット作へと成長した背景にはそんな“神話”への欲求があり、そしてこの最終回にはファンの多大な期待を背ったショーランナー、デヴィッド・ベニオフ、D・D・ワイスの苦心も伺い知れた。

 ドラゴンは母と共に天へと還り、勇者アリアは未開の西方へと旅立つ。『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』でもエルフや魔法使いが西方浄土へと向かう事で物語が終わりを告げた。神話の登場人物達がこの世を去り、サンサやブランら人の統治が始まる事でファンタジーの時代は終焉するのである。

ではジョン・スノウとはいったい何者だったのか?

光の王の加護により死から甦った彼の使命とは何だったのか?

シーズン8では尽く精彩を欠き、ネット上ではイグリッドの有名なセリフ『You Know Nothing』をもじって『You Do Nothing』がミーム化した。理想に燃え、並々ならぬ勇気で道を切り拓いてきた男は戦乱を終わらせる宿命の子ではなかったのか?愚鈍なまでの朴訥さでデナーリスに愛を誓った彼はその蛮行を止める事はできなかった。

いや、彼が止めたのはデナーリスが破壊すると宣言した車輪ではないだろうか。車輪とは暴政であり、血族による統治といういわば選民思想である。ジョンの行動をきっかけに、ドロゴンは人間の愚かさと欲望の象徴である鉄の玉座を焼き払う。悪しき歴史は破壊され、ウェスタロスに民主主義が芽生え始める。それでも歴史に残るのは善政を敷くブランであり、ジョンは歴史の闇に埋もれてしまうだろう。再びナイツウォッチとして壁に送られたジョンはそこで命を掛けて守った野人達と再会し、さらなる北を目指す。この無情さが『ゲーム・オブ・スローンズ』であり、そして製作者達は「常に正しい場所に居た」ジョンの献身に人の善意を見出しているのである。


『ゲーム・オブ・スローンズ シーズン8』19・米
製作・監督 デヴィッド・ベニオフ、D・D・ワイス
出演 キット・ハリントン、エミリア・クラーク、レナ・ヘディ、ソフィ・ターナー、メイジー・ウィリアムズ
GAME OF THRONES(R) 8 #1
キット・ハリントン,エミリア・クラーク,ピーター・ディンクレイジ,ソフィー・ターナー,メイジー・ウィリアムズ
メーカー情報なし


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