長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『カラーパープル』(1985年)

2024-03-18 | 映画レビュー(お)

 1986年第58回アカデミー賞で10部門11候補に挙がりながら監督のスピルバーグが選外となり、さらには全部門で受賞を逃した『カラーパープル』の全敗記録は未だオスカーウォッチャーの話題に上るアカデミー賞トリビアだ。無理もない結果である。アリス・ウォーカーのピューリッツァー賞受賞作を原作とする本作は、1900年代初頭の黒人社会を舞台にしたフェミニズム作品であり、徹底的に虐げられてきた彼女たちがわずかながらの自由を得るまでの物語をスピルバーグが撮ったことは“賞狙い”と叩かれた。当時のスピルバーグは“娯楽映画監督”からの脱却を図っており、この低迷は93年に『シンドラーのリスト』を撮るまで続くこととなる。どうにも感銘を呼ばない作品なのだ。

 また黒人男性が暴力的で愚鈍と描かれる本作を白人のスピルバーグが表象化することは現在の映画界ではまず起こり得ないし、無論スピルバーグもやらないだろう。ドメスティック・バイオレンスと性暴力にまみれた154分間の演出は信じがたいことに牧歌的ですらある。『アメリカン・フィクション』を観た後では、本作や原作小説が受容された当時の世相を想像するのは難くない(本作は北米だけでも9000万ドル超の興行収入を記録している)。

 しかしハリウッドのメインストリームで黒人が自らの物語を語ることができなかった時代である(スパイク・リーが『ドゥ・ザ・ライト・シング』を発表したのは4年後の1989年)。キャストにはウーピー・ゴールドバーグ、オプラ・ウィンフリー、ダニー・グローヴァー、音楽にはクインシー・ジョーンズといった才能が集結した。コメディエンヌのイメージが強いウーピーがここでは暴力を内面化し、自ら心を閉ざした主人公セリーを繊細に演じて驚かされる。現在ではアメリカを代表するオピニオンリーダーとなったオプラ・ウィンフリーも名演だ。後に本作はブロードウェイでミュージカル化され、2023年にはミュージカル映画として黒人監督のもとリメイク。時代の変遷に合わせ、再表象されていったのである。


『カラーパープル』85・米
監督 スティーヴン・スピルバーグ
出演 ウーピー・ゴールドバーグ、ダニー・グローヴァー、マーガレット・エイブリー、オプラ・ウィンフリー
 

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