長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『アフター・ヤン』

2022-11-10 | 映画レビュー(あ)

 韓国出身の監督コゴナダは2017年の長編監督デビュー作『コロンバス』で注目を集め、今年はAppleTV+で配信された『パチンコ』で叙事詩的大河ドラマを撮り上げる才能を見せた。小津安二郎に強い影響を受けたと公言する彼の長編第2作『アフター・ヤン』はA24からリリースされ、いわゆる“アメリカ映画”にない語りのペースが新鮮だ。近未来、家庭用シッターロボット“ヤン”が故障する。コリン・ファレル演じる主人公ジェイクは中古屋で購入したためメーカー保証を受けられず、何とか修理しようと手段を講じていくうちにやがてヤンが自分たちの知らない秘密を持っている事に気付く。

 コゴナダが描く“アジアンフューチャー”は『ブレードランナー』をはじめ、これまで欧米で創られてきた雑多で猥雑なランドスケープとは全く異なり、整然として静謐、ゆったりと時間が伸長する。プロダクションデザインは徹底された美意識によって統一され、瞑想的とも言うべき96分間のランニングタイムは実に豊潤だ。そんなコゴナダのバイブスにチャネリングしたコリン・ファレルが柔和な存在感を見せ、『ザ・バットマン』『13人の命』に続く充実である。

 機能停止したヤンのメモリは宇宙空間とも言うべき深淵さで、コゴナダは人を成す“記憶”という存在を通じて先達同様「人間とは何か?」と問いかける(近年、このジャンルを掘り下げた『ウエストワールド』からクリフトン・コリンズJr.が出演しており、デジャヴュを覚える)。ヤンの秘密を知る女性役で『コロンバス』に続きヘイリー・ルー・リチャードソンが出演。放送中のHBOドラマ『ホワイト・ロータス』シーズン2といい、物語の重要なターニングポイントを担うバイプレーヤーへと成長しているのが嬉しい驚きだった。


『アフター・ヤン』21・米
監督 コゴナダ
出演 コリン・ファレル、ジョディ・ターナー・スミス、ジャスティン・H・ミン、マレア・エマ・チャンドラウィジャ、ヘイリー・ルー・リチャードソン

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