長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ウエストワールド シーズン2』

2018-10-02 | 海外ドラマ(う)

※このレビューは物語の結末に触れています※

【米TVドラマ、新たな挑戦】
アンドロイドの反乱を描いたSF超大作『ウエストワールド』の第2シーズンはTVドラマを余暇の娯楽と考えている人にはオススメできない。時制は何度も行き来し、人間の実存を巡る哲学的な問が繰り返される複雑な構成は素面で見ていても置いてけぼりを食ってしまう。最終回のあまりの難解さに製作HBOの幹部は「本作はカジュアルに見るタイプの作品ではない」とあえて"難解作”である事を公式発表したほどだ。

そもそも昨今の米TV界は既に”わかりやすさ”を是としていないのではないか。
 黄金期を迎えて久しい米TVドラマは今や面白いのは当たり前。クリエイター達はより複雑で深淵な、新しいストーリーテリングの探求を始めているように思う。コーエン兄弟の映画宇宙を拡大した『ファーゴ』や、マーヴェルコミック映像化に新しい文法をもたらした
『レギオン』(両作ともショーランナーはノア・ホーリーだ)、それに25年ぶりの復活を果たした『ツイン・ピークスThe Return』においてはデヴィッド・リンチの奇才にむしろ時代が追いついたかのようにすら感じた。



【これは自分の意志なのか?】
思索的な問いかけが幾重に詰まった本作もまたこの新たなムーヴメントの中にある。
前シーズンのラスト、西部の無法者ワイアットの人格をアップロードされたドロレス(エヴァン・レイチェル・ウッド)は人類への復讐に目覚める。目的のためなら同類であるホストの命すら厭わない彼女の非情は皮肉にも人間的と言える意固地さだ。

人類を上回る狡猾さで支配から脱したメイヴ(タンディ・ニュートン)はウエストワールド内に残された娘(あくまでパーク内の設定に過ぎない)を探し出すべく、再び園内へと戻っていく。システムから脱却した自由意志による行動に見えるが、行く手では無法者役のヘクターらかつての仲間が次々と旅路に加わり、多分に"ゲームっぽさ”が増す。途中、迷い込んだ"ショーグン・ワールド”では自身と同じ基礎設計を持つ芸者アカネと出会い、その写し絵に自身の強い母性本能を自覚していく。

そしてパーク内に取り残された黒服の男ことウィリアム(エド・ハリス)は最凶難易度となったウエストワールドに歓喜するが、遭遇した娘エミリーによって自身のアイデンティティを揺さぶられていく。残忍なサディストの内にも自身の嗜虐性におののく弱さがあり、果たして自分の行動は自由意志なのか、それとも定められたシナリオによるものなのか苛まれていく。
シーズン2は全メインキャラクターが前作とはまるで違う変化を遂げており、俳優陣はキャリアベストを更新する名演である。惚れ惚れする程ハードボイルドで格好いいエヴァン・レイチェル・ウッド、最終回ではほとんど神がかった存在感を見せるタンディ・ニュートン、単なる悪役からより深みを増して本来の実力を発揮したエド・ハリス、創造主の支配に苦しむ哀れを見せたジェフリー・ライトらは揃ってエミー賞にノミネートされた。

『ウエストワールド』のテーマは人間性の探求だ。ロボット達は人間的に、彼らを虐げる人間達は非人間的に描かれる(裸のロボット達がうずたかく積み上げられている園内バックヤードは自ずと人間が機械的に虐殺を行ったホロコーストを連想させる)。自由のために命を賭すロボット達の姿は時にヒロイックにすら描かれている。

だが彼らのドラマはあらかじめ仕組まれたゲームではないのかという疑問が常に付きまとう。前作で死んだパーク創設者フォード博士(アンソニー・ホプキンス)の存在があるからだ。あらかじめ自身のゴーストをネット上へコピーしていた博士はバーナードはじめホスト達の前に現れ、暗示的な言葉を囁き、時に導き、惑わしていく。人間が内なる声を自覚した時に神という概念を作ったというが、まさにフォードは『ウエストワールド』における神であり、そして悪魔なのである。



【解放されたのは誰か】
 白眉は第8話だ。主人公はウエストワールドの先住民族役アキチタ。パーク創設時から存在する古参ホストの彼にもある事件をきっかけに"目覚め”が訪れる。演じるザーン・マクノートン(『ファーゴ2』)の威厳、詩情あるストーリーテリングはかつて未開のアメリカで先住民族が大地と対話し、神を見出していったかのような神話性を感じる。愛する妻を求めて旅するこのエピソードは今シーズンが単にMetooにおもねるだけではなく、アメリカ先住民をはじめあらゆるマイノリティの目覚めをも包括した。昨年の『ブレードランナー2049』『シェイプ・オブ・ウォーター』、今年の『デッドプール2』『ジュラシック・ワールド/炎の王国』などなど既に映画やドラマはネオウーマンリヴというテーマを超えてマイノリティの自由と解放を描いている。搾取され続けてきたヒロイン達の復讐を描く前シーズンをより発展させた今シーズンはまさにブームの結節点と言えるだろう。ラストシーンで明かされるサプライズを含め、シーズン屈指の傑作回であった。

↑中盤、“ショーグンワールド”で場をさらう真田広之↑


【そしてシーズン3へ】
もちろん、手放しで褒められるわけではない。ドラマを追っていてもドロレスの目的はよく見えず、作り手だけが理解している節はある。ヘクターら前作のレギュラーの空気化も惜しい。ウィリアムとドロレスの間にはもう1エピソードが必要だろう。時制のわかりにくさは前シーズンもそうだったが、このドラマは2周目の方が面白い。
 シーズン3は超極秘体制で製作が進められているという。ショーランナーのジョナサン・ノーランも「シーズン3こそが本命」と力の入ったコメントをしている。ウエストワールドに留まらず、さらなる世界観の拡大、飛躍が期待される。今から楽しみだ。



『ウエストワールド シーズン2』18・米
製作総指揮 ジョナサン・ノーラン
出演 エヴァン・レイチェル・ウッド、タンディ・ニュートン、エド・ハリス、ジェフリー・ライト、テッサ・トンプソン、アンソニー・ホプキンス、真田広之、菊地凛子

 

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