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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『マダム・フローレンス!夢見るふたり』

2017-01-10 | 映画レビュー(ま)


無類の音楽好きが高じてソロリサイタルを主催、出演する事になった大富豪フローレンス・フォスター・ジェンキンスだが、前代未聞の音痴である事を本人だけが知らなかった。かくしてその奇天烈な公演音源はカーネギーホールでナンバーワン人気の珍アーカイブとなり、今もその記録は破られていないという。

この実話を知った製作陣がフローレンス・フォスター・ジェンキンスにメリル・ストリープを起用した意図はよくわかるし、ストリープ自身も精力的に役に取り組んでいる。しかし『マーガレット・サッチャー』で3度目のオスカーを受賞して以後、彼女のやり過ぎなカリカチュア演技は留まる所を知らず、観客は胸やけ寸前だ。
冒頭、劇中劇で天使に扮したストリープ(!!)が天から降りてくる。一見ハタ迷惑なオバチャンが実は天使のようにピュアな心を持っているというのは近年の彼女の持ち役だ。『ジュリー&ジュリア』のジュリア・チャイルド役は本人が相当に素っ頓狂な人とは想像がついたし、あくまでコメディとして演出されていたが、今のストリープは演出意図や見え方ばかりを気にしていてハートが感じられない。マンネリ、やり過ぎの演技にはほとほとウンザリしてしまう。

ベテラン監督スティーブン・フリアーズが小粋で無難にまとめる本作の見所はマダム・フローレンスを献身的に支える男達だ。
56歳の皺が刻まれたかつてラブコメの帝王ヒュー・グラントはチャーミングさを少しも失っておらず、ウェルメイドな芝居の間合いであらゆるギャグを決めていく。肩の力が抜けたある種の“ちゃらんぽらん”さはマダム・フローレンスの内縁の夫というダメ男役にピタリとハマり、ついにはダンスシーンで比類ないスター性を再証明するのである。初のアカデミー賞候補も十分あり得るのではないか。

 またマダム・フローレンスに付き合わされるピアニストを演じたサイモン・ヘルバーグも表情1つで笑わせるスマートな喜劇演技を披露している。2人とも、今のストリープにはない軽やかさを映画にもたらしており、職人フリアーズの采配が伺えた。


『マダム・フローレンス!夢見るふたり』16・英
監督 スティーブン・フリアーズ
出演 メリル・ストリープ、ヒュー・グラント、サイモン・ヘルバーグ
 

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