マーサ・ミッチェルはニクソン政権の司法長官ジョン・N・ミッチェルの妻で、歯に衣着せぬ発言と社交的な性格から支持者の人気も高い、謂わば政権の非公式広告塔のような存在だった。ニクソンの大統領2期目に向けて夫が公職を退き選対本部長となった1972年、マーサも再選を訴えるべく精力的に選挙活動のバックアップに回った。そんな折、ウォーターゲート事件が発生。民主党事務所に侵入し、盗聴器を仕掛けようとして逮捕された男たちの中には選挙事務所で見知った顔があった。何かがおかしい。旧知のジャーナリストに電話をかけるとマーサは政権スタッフに取り囲まれ、拘束。呼び出された医師に薬物を投与され、体調不良説が流布されてしまう。
恐ろしい話である。ともすれば陰謀論として一笑に付されてしまう話が真実で、国家権力の中枢に居座る連中が嘘つきだったら?原題“The Martha Mitchell Effect”とは真実を話しているにも関わらず、周りがそれを妄想と見なす状況を指した心理学用語。マーサはニクソンが辞任するまでの間、主犯格である夫からもガスライティングを受け、逮捕後には「マーサと暮らすくらいなら刑務所の方がマシ」とまで言い捨てられる。事件後、マーサは夫からの養育費も満足に貰うことが叶わず、その晩年は寂しいものだったようだ。いつの時代もモノ言う女は尽く潰されてきたのである。本作は第95回アカデミー賞で短編ドキュメンタリー賞にノミネートされた。
『マーサ・ミッチェル 誰も信じなかった告発』22・米
監督 アン・アルヴァーグ、デブラ・マクラッチー
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます