長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『マクベス』

2022-01-22 | 映画レビュー(ま)

 コーエン兄弟の兄ジョエルの単独監督作がシェイクスピア映画と聞いて驚いた。弟イーサンが興味を示さなかったため単独監督作となったそうだが、それも納得だ。オーソン・ウェルズ、ムルナウ、ベルイマンなど相変わらずクラシックへのオマージュはふんだんに盛り込まれているものの、オープンセットを駆使して演劇と映画の中間に位置する本作は驚くほどオーセンティックなシェイクスピア映像化になっている。これまで我々が見てきた“コーエン兄弟”作品がいかに兄弟2人よる共同作業であったか、逆説的に明らかとなった格好だ。

 『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』『バスターのバラード』で組んだ撮影監督ブリュノ・デルボネル、音楽カーター・パウエルら常連スタッフを揃える一方、演劇界から大女優キャサリン・ハンターを魔女役で招聘し、その驚くべき身体性を収めるなど演劇的要素を多く取り込んでいるのが面白い。御歳67才となったマクベス役デンゼル・ワシントンはいい具合にアクが抜け始め、数多の俳優がフルスイングで演じてきた役柄を繊細な心理演技で見せて、性格俳優としての面目躍如である。マクベスと対決するマクダフ役にも黒人俳優コーリー・ホーキンズが配されており、シェイクスピア劇ならではのカラーブラインドキャスティングはもちろんのこと、アフリカンアクセントの混在が耳にも楽しい。

 ジョエル自ら手掛けた脚色が活きているのはロスの扱いだ。『ゲーム・オブ・スローンズ』のリトルフィンガーに見えてしまうのはご愛嬌だが、バンクォーの息子フリーアンスと逃げ落ちるラストにさらなる波乱が予感される。『マクベス』の本質とは人の欲望ある所に戦の火は無くならないというメッセージであり、真髄を捉えた再演であった。


『マクベス』21・米
監督 ジョエル・コーエン
出演 デンゼル・ワシントン、フランシス・マクドーマンド、アレックス・ハッセル、バーティ・カーベル、ブレンダン・グリーソン、コーリー・ホーキンズ、ハリー・メリング、キャサリン・ハンター、モーゼス・イングラム
※AppleTV+で独占配信中※

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