長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『バスターのバラード』

2018-12-21 | 映画レビュー(は)

ついにコーエン兄弟もNetflix参入だ。当初はTVミニシリーズとして企画されていたが、2時間の劇映画として完成。ヴェネチア映画祭では脚本賞に輝いた。兄弟もNetflixという新たなプラットホームを満喫したのか、近年の諸作にはない実験性と肩の力が抜けた楽しさがある。キャスティングは常連組を排してリーアム・ニーソン、ジェームズ・フランコ、ゾーイ・カザン、ブレンダン・グリーソンらを起用。撮影は相棒ロジャー・ディーキンスからブリュノ・デルボネルにバトンタッチし、初のデジタル撮影を試みた。西部の広大なランドスケープもさる事ながら、往年の西部劇を思わせる色味の美しさは筆舌し難く、特にトム・ウェイツ主演の第4話は自宅のHDテレビでも画質を堪能する事ができた次第。このジャンルに並々ならぬ偏愛を抱いてきた兄弟にとってディーキンスと組んだ時のシニカルさよりも、デルボネルの温かみの方がより親和性が高いのではないだろうか。

物語は西部開拓時代をモチーフにした“小話”だ。兄弟特有の人を食ったシニカルでユーモラスな味わいと「何だそれ!?」と言いたくなる突拍子のなさがあり、満腹になり過ぎない丁度いい塩梅である。ティム・ブレイク・ネルソン演じる流しの賞金稼ぎを描いた第1話はバイオレンスとギャグ、そしてカントリーソングといった兄弟の好きな物が詰まった怪編。リーアム・ニーソンが四肢のない芸者を見せ物にして巡業する第3話の冷徹さも彼らのもう1つの作家性だ。

 一方、『トゥルー・グリッド』でも見せた王道西部劇への憧れが結実した第5話は本作の白眉である。風格と抒情、そして辛辣すぎるブラックユーモアによって導かれた結末は一体どんな顔をしたら良いのかわからなくなってしまった。今後、新たな西部劇の傑作をモノにするであろう兄弟にとってキャリアの結節点と言える作品になるかも知れない。


『バスターのバラード』18・米
監督 ジョエル&イーサン・コーエン
出演 ティム・ブレイク・ネルソン、ジェームズ・フランコ、リーアム・ニーソン、トム・ウェイツ、ゾーイ・カザン、ブレンダン・グリーソン

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