長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『バティモン5 望まれざる者』

2024-06-14 | 映画レビュー(は)
 2019年の長編監督デビュー作『レ・ミゼラブル』でカンヌを圧倒し、脚本を手掛けた2022年のNetflix映画『アテナ』で世界中の度肝を抜いたラジ・リは、今や“フランスのスパイク・リー”とも言うべき重要監督の1人だ。フランス郊外団地に追いやられてきた人々の烈火のような怒りを撮らえるラジ・リは、再び自身が生まれ育った街モンフェルメイユの団地“バティモン5”を舞台に、現代フランス社会の問題を炙り、文字通り映画を発火直前までヒートアップさせていく。

 冒頭、団地を空撮するダイナミズムが今や“フランス郊外団地映画”とも言うべきジャンルを確立したラジ・リならではスペクタクルだ。カメラが団地の一室に入り込むと、そこでは葬儀が行われている。様々な国籍の多様な文化が凝縮され、移民二世、三世が新たなフランス社会を築く中、行政は団地の老朽化を理由に彼らを追い払い、新たに小規模世帯向けの賃貸住宅を作ろうとしている。多額のローンを払って今の物件を購入した住民はこの横暴に怒りの声を上げるが、行政側から言わせてみれば増加する犯罪に苦慮した”選択的移民”である。一種のブラック・ライヴズ・マター映画でもあった前2作での激しい怒りをラジ・リは理性的なまでに抑制し、住民と行政の双方から平等に視点を得ている。私たちの間には望むと望まざるとをかかわらず、決定的な断絶がある。その溝を少しでも埋めていくためにも時に拳を下ろし、言葉を交わして、全てに直結する政治へと参画し続けなければならないのだ。ラジ・リが現代映画における重要な視座を持った監督であることは疑いようがなく、これまでのテーマがさらに先へと押し進められた1本である。


『バティモン5 望まれざる者』23・仏、ベルギー
監督 ラジ・リ
出演 アンタ・ディアウ、アレクシス・マネンティ、アリストート・ルインドゥラ、スティーヴ・ティアンチュー、オレリア・プティ、ジャンヌ・バリバール

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