
スタンリー・キューブリック監督による本作はホラー映画史に燦然と輝く古典としてその後、多くのフォロワーを生み出す事となったが、原作者スティーヴン・キングはその仕上がりに納得しておらず、後に自ら脚本、製作総指揮を務め1997年にTVドラマ版を製作する。『シャイニング』の映画化権は当時キューブリックにあったが、キングが映画版への批判を止める事を条件に再映像化の許可が下りたというのだから原作者の怨みは怨霊もかくやだ(結局、キューブリックの死後、キングはまた文句を言っている)。
確かに“シャイニング・輝き”と呼ばれる超能力を持った少年ダニーと彼の能力に気付くハロランの素性や、舞台となるオーバールックホテルの悪霊たちがそれを欲している事にはあまり触れられていない。超リアリストであるキューブリックがキングの描く超常現象を全く信じておらず、アルコール中毒とスランプ、閉所によってパラノイアに陥る父ジャック・トランスの狂気として原作を理解しているからだ。演じるのがジャック・ニコルソンであれば巻頭早々から危ういのは言うまでもなく、その妻を演じるシェリー・デュヴァルの神経症演技からもキューブリックの演出プランがありありとわかる(『ドクター・スリープ』でシェリー・デュヴァルの役に全くタイプの異なる女優がキャスティングされている事からも裏付けられる)。
だが原作未読であればそんな事は気にせず楽しむべきだ。整然としているからこそ気味の悪いオーバールックホテルの見事なプロダクションデザイン、そこを駆け抜ける当時最新鋭機器ステディカムによる移動撮影、そして2時間の交響曲のように鳴り響くペンデレツキはじめとする現代音楽の不協和音。これらがキューブリックの美意識が貫かれた総合芸術として圧倒的である。この精密さでは1シーン数テイクという撮影も当たり前だろう。役者は寸分たりとも“狂う”事は許されないのだ。狂気を理性で描くのがキューブリックである。
そしてキューブリック版、キング版2つの『シャイニング』は40年の時を経て続編『ドクター・スリープ』がその仲を取り持つ事になる。
『シャイニング』80・米
監督 スタンリー・キューブリック
出演 ジャック・ニコルソン、シェリー・デュヴァル、スキャットマン・クローザーズ、ダニー・ロイド
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