長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『チャイルド・イン・タイム』

2020-04-05 | 映画レビュー(ち)

 今でこそTVドラマ『シャーロック』やマーベル『ドクター・ストレンジ』で世界的人気スターとなったベネディクト・カンバーバッチだが、舞台で鍛えた英国俳優らしくフィルモグラフィは難役が多い。アカデミー賞候補に上がった『イミテーション・ゲーム』では実在した非業の天才数学者、TVシリーズ『パトリック・メルローズ』では虐待の記憶に苦しむ薬物中毒者、そして本作『チャイルド・イン・タイム』では4歳の娘を誘拐された児童文学者役だ。

 映画はカンバーバッチ演じるスティーブが買い物中に娘を見失う場面から始まる。事件か事故かも明らかにならず、これを機に妻との関係は破綻。スティーブもアルコールに溺れていく。
 原作は映画『つぐない』『追想』で知られるイギリスの作家イアン・マキューアンによる『時間の中の子供』。その脚色は成功していると言い難い。劇中の時間経過がわかりづらく、ケリー・マクドナルド演じる妻が運命を受けて入れている様はやけに冷淡に映る。さらに政府の教育審議に携わる主人公と友人のプロットが前面に押し出され、英国首相まで登場する物々しさだ。スティーヴが寒村で自分を身籠っていた母親を幻視する場面もオカルトめいてしまった。4歳の娘の喪失、という重大なマテリアルが丁寧に扱われているとは言い難い。

 これではカンバーバッチも演じ所がない。『1917』ではカメオ出演ながらクライマックスをピリリと引き締め、既に名優の貫禄だった。キャリアと共に失敗作が増えてしまうのも名優ゆえという事なのか。
本国ではBBC製作のTV映画であり、日本ではケーブルTVのスターチャンネル限定放送で終わっている。


『チャイルド・イン・タイム』17・米
監督 ジュリアン・ファリノ
出演 ベネディクト・カンバーバッチ、ケリー・マクドナルド、スティーブン・キャンベル・ムーア
 

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