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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『仁義なき戦い』

2020-12-22 | 映画レビュー(し)

 巻頭早々、終戦直後の広島を撮らえる暴力的なエネルギーに圧倒されてしまった。1973年、深作欣二監督による傑作シリーズの第1弾だ。菅原文太、松方弘樹、渡瀬恒彦、田中邦衛、梅宮辰夫らが一世を風靡するギラつきを放ち、カメラもそのエネルギーを浴びて荒れ狂う。ドスの効いた広島弁の応酬は、今のTVで育った世代には理解不能のカオスだろう。暴力団の仁義なき抗争を描いた本作は、大量の登場人物を捌きながら僅か99分のランニングタイムを怒涛の如く駆け抜けていき、その振り切れたエネルギーは指詰めシーンでついにスラップスティックな笑いにまで転じる。死人が出る度に鳴り響く、津島利明のあのテーマ曲と死亡日時を記したテロップはほとんど様式美の域で、なぜか高揚してしまうのだから面白い。初見で登場人物の整理はほぼ不可能。只々、流れに身を任せて引きずり回されればいい。

 本作が観客から絶大な支持を獲得し、映画史に残る傑作となった由縁は、戦争を知る深作監督ら製作陣の精神性が時代のメンタリティと合致したからではないだろうか。姑息な山守親分(タヌキ芝居が憎々しい金子信雄)に言いくるめられ、菅原文太演じる広能は何度も“鉄砲玉”として危ない橋を渡らされる。だが、何度クサい飯を喰おうが親分の言う「ムショから出たらオレの全財産はおまえのものだ」という約束は果たされる気配がない。広能はまさに特攻隊であり、山守は戦争を起こした親世代の象徴として若い世代にそのツケを背負わせ続けるのだ。安保闘争を経た1973年は、そんなメンタリティを共感できる“戦争の匂い”がまだ残っていたのではないか。「弾はまだ残っちょるがよ」はイーストウッド『許されざる者』と並ぶ、最高に痺れるクライマックスである。


『仁義なき戦い』73・日
監督 深作欣二
出演 菅原文太、松方弘樹、田中邦衛、渡瀬恒彦、梅宮辰夫、金子信雄
 
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『シカゴ7裁判』

2020-10-22 | 映画レビュー(し)

 2020年は終わっていない。コロナショックによってハリウッド映画が『テネット』ただ1本となり、ディズニーが劇場向けの映画製作を止めると宣言しても、アメリカ大統領選挙という重大な年に現れた『シカゴ7裁判』を見逃してはならない。かつてはスピルバーグ監督作として企画が進行し、十余年の紆余曲折を経て登場したアーロン・ソーキン監督による本作は今こそ見るべき烈火のような1本だ。

 1968年、ベトナム戦争反対のデモを先導したとして7人の活動家が告発される。民主党大会をターゲットとしたそれは警官隊との衝突で多くのケガ人を出してしまったのだ。事件後に発足したニクソン政権は反政府的世論を打ち砕くべく7人を見せしめに国策裁判を断行する。

 おお、振り返ればこんな堂々たる法廷劇はいったい何時以来か。巻頭早々に審理の幕は開き、2時間10分ほぼ法廷の中だけで物語は展開する。“シカゴ7”の個人的バックグラウンドはほとんどオミットされ、描かれるのは国家による恣意的な法廷闘争だ。
 となれば必要となるのは素晴らしい演技と脚本である。『ソーシャルネットワーク』『モリーズ・ゲーム』同様、アーロン・ソーキンの膨大な台詞が俳優陣を熱くたぎらせ、エディ・レッドメインが今再び自己ベストを更新。ヤーヤー・アブドゥル・マティーン2世は頭角を現したHBO『ウォッチメン』がフロックでない事を証明し、サシャ・バロン・コーエンは本作の翌週に『ボラット2』がリリースされる事でそのオルタナティブな笑いと批評精神を明らかにした。ジョゼフ・ゴードン・レヴィットがサポートロールで演技者としての本懐を見せれば、名脇役ジョン・キャロル・リンチは遥かに少ない出番で助演の鑑である。マイケル・キートンは所謂“大御所枠”で登場し、ほんの数年前まで過去の人だったのが嘘のような重厚さだ。この顔触れでジェレミー・ストロングがいる事にアがれない人は今すぐ『キング・オブ・メディア(サクセッション)』を見るように。そして映画の守護精霊マーク・ライランス!彼らのアンサンブルは2020年どころか近年のアメリカ映画における最もスリリングなそれであり、来るアカデミー作品賞レースでも注目を集める事になるだろう。

 本作は多くの歴史的事実に脚色が施されており、“正しさ”において決して信頼できるものではない。見るべきは本作を2020年にリリースするソーキンの“解釈”だ。ブラックパンサー党のボビー・シールは抗議の声を封じられ、法廷で猿ぐつわに枷で拘束されてしまう。その姿に「I can't breath」と訴えながら白人警官に殺された黒人達を想起せずにはいられない。威厳と傲慢を履き違えた判事(圧巻のフランク・ランジェラ)が大統領を雇用主と宣う姿は哀しいかな、ここ日本でも見慣れた光景だ。

 何より重要なのはリベラルの敗北が描かれている事だろう。トム・ヘイデンは実際に暴力を煽るような発言はしなかった。彼らが認められたのは本作で描かれない控訴審での事であり、シカゴ7のインテリジェンスと苛烈な怒りは姑息なニクソンにつけ入る隙を与えてしまったのだ。“世界は見ている”に対して無常に響く「誰か窓の外を見ている人はいる?」という台詞を聞き逃してはならない。劇中「4年に1回の民主的革命」と言われる選挙において最も重要なのは人々の無関心と如何に向き合うかなのだ。Black Lives Matterのマーチが犠牲者の名をコールし、大坂なおみが彼らの名前を背負って戦ったのと同様、シカゴ7はベトナム戦死者の名前を挙げて抗議する。この理想を持ってしても、なお僕らは困難な戦いに直面しているのだ。

本作を1年後、3年後に見ても意味がない。ここには映画をリアルタイムで見ることの価値があり、アーロン・ソーキンのパワフルなメッセージと全世界同時リリースで“仕掛けた”Netflixの訴求力に圧倒されてしまった。


『シカゴ7裁判』20・米
監督 アーロン・ソーキン
出演 エディ・レッドメイン、サシャ・バロン・コーエン、ジェレミー・ストロング、マーク・ライランス、ジョン・キャロル・リンチ、ジョゼフ・ゴードン・レヴィット、ヤーヤー・アブドゥル・マティーン、フランク・ランジェラ、マイケル・キートン
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『ジュマンジ ネクスト・レベル』

2020-09-18 | 映画レビュー(し)

 シリーズリブート第2弾。予想外の特大ヒットとなった前作からわずか2年の続編製作にスタジオの期待値の高さが伺えるが、言ってみれば“同じゲームの2周目”。いや百歩譲って“システムアップデートがほとんどない、同ハードの続編”みたいなもんである。スリルもなければ新味もなく、作り手もその点は折り込み済みだ。前作で大ウケした“見た目は〇〇だけど中身は〇〇”ネタを大幅にバージョンアップ。前作キャストにすっかりおじいちゃんとなったダニー・デヴィート、ダニー・グローヴァーを迎え、“見た目は〇〇だけど中身はジジイ”というギャグをかましてロック様はじめキャスト陣が芸達者ぶりを披露する。この面子にオークワフィナが加わっているのだから、今の彼女の勢いはホンモノだ。彼らの楽し気な掛け合いが見所の1本である。


『ジュマンジ ネクスト・レベル』19・米
監督 ジェイク・カスダン
出演 ドウェイン・ジョンソン、ジャック・ブラック、ケヴィン・ハート、カレン・ギラン、ニック・ジョナス、ダニー・デヴィート、ダニー・グローヴァー

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『幸せへのまわり道』

2020-09-09 | 映画レビュー(し)

 アメリカでは知らぬ者がいないと言われる子供向け教育番組“Mister Roger's Neighborhood”の司会者フレッド・ロジャーズと記者トム・ジュノー(映画ではロイド・ヴォーゲルの役名)の交流を描いた実録映画。『ある女流作家の罪と罰』で注目されたマリエル・ヘラー監督らしい独特なテンポのヒューマンドラマだ。

 1998年、雑誌エスクァイアへ寄稿のため、ロイドはロジャーズへ取材を申し入れる。会うや否やロジャーズはロイドが抱えていた家庭問題を言い当て、やがてその立場は逆転していく。ロジャーズは『ある女流作家の罪と罰』のリー・イスラエルとは比べ物にならない程の聖人君子で、2人の交流は同じくらいメインストリームから程遠い。TVドラマ『ジ・アメリカンズ』でエミー賞を獲得した名優マシュー・リス演じるロイドは父との軋轢によって攻撃的な人格になっており、トム・ハンクスが妙演するロジャーズはおっとりが過ぎるくらい奇妙な間合いだ。ロジャーズは神出鬼没、他人の心にするりと入り込み、その心の内を言い当て、ほとんどレクター博士である。

 聞けばロジャーズは子供が人前で自身を偽らないためにも番組用のキャラクター(人格)を作り上げる事はせず、また子供の作りモノを見抜く力を信じていたらしい。完全再現される劇中番組の奇妙な間合いは全てロジャーズの“素”であり、マリエル・ヘラーとトム・ハンクスの独自の人物観察はユニークなコラボレーションを達成している。近年、“アメリカの父”とも言えるロールモデルを名演してきたハンクスが癒しの人物であるロジャーズを演じて20年ぶりのアカデミー賞候補を達成した事はそのキャリアにおいて重要な意味を持つだろう。

 ロイドとロジャーズの奇妙な交流はやがて普遍の友情となり、物語は家族の和解というメインストリームに帰結する。死の床にあるロイドの父(クリス・クーパー)に慰めの言葉をささやくロジャーズの深みに引き込まれた。彼は元々は聖職者を目指していたという。アメリカは今、彼のように朴訥で、癒しの心を持った人物を求めているのかも知れない。


『幸せへのまわり道』19・米
監督 マリエル・ヘラー
出演 マシュー・リス、トム・ハンクス、クリス・クーパー、スーザン・ケレチ・ワトソン
 
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『ジェミニマン』

2020-08-20 | 映画レビュー(し)

 『ライフ・オブ・パイ』で2度目のオスカー監督賞に輝き、名実共に現役最高の名匠となったアン・リー。その後、2016年の『ビリー・リンの永遠の一日』では120FPS/4K/3Dという最新技術を導入し、最新作となる『ジェミニマン』では60FPSのハイフレームレート撮影、フルCGで若き日のウィル・スミス創造という技術革新に挑戦している。ところがこれを再現できるスペックを持った映画館というのは世界的に見ても数が限られているらしく、本作の真価を確認した人はそう多くないだろう。

 この技術がもたらす“没入感”を再現するため俳優がカメラ目線で喋るバストアップが多用され(ウェス・アンダーソンか)、自宅のTVでも違和感を覚える明る過ぎる映像処理が施されるなど、手段と目的が反転した迷走ぶりが際立つ。フルCGの若ウィル・スミスには目を見張るが、アクションに必要な“重心”までは再現されておらず、フィジカルアクション全盛時代に逆行したセンスにはかつて『グリーン・デスティニー』でワイヤーアクションブームを巻き起こした作家の姿はない。稀代のストーリーテラーであるアン・リーが映画技術ばかりに注力する様は『アバター』に10余年を費やしているジェームズ・キャメロンや、3DCGアニメ時代のロバート・ゼメキスを思わせる。頂点を極めた巨匠だけが辿る道なのか。

 もっともアン・リーにとってフルCGキャラクターというのは演出上の“見立て”でもある。『ライフ・オブ・パイ』で創造されたトラは極限状況に置かれた主人公の心理であり、本作における若ウィル・スミスは中年の危機に至った主人公の心象である。殺しの咎を背負った主人公は自身を追い詰める若ウィル・スミスをゴーストと呼ぶ。

 だが『ゲーム・オブ・スローンズ』のデビッド・ベニオフや名手ビリー・レイら4人がかりの脚本は空虚な映像技術同様の壊滅的仕上がりであり、スミスも何ら演技的挑戦をしていない。唯一の収穫はTV『ファーゴ』シーズン3でしなやかに飛躍し、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』で目の醒めるようなマニッシュさを見せたメアリー・エリザベス・ウィンステッドの過渡期を確認できた事くらいだろう。

 クローン人間である若ウィル・スミスは「なぜオレを作った?」とさして苦悶する事もなく、むしろ巨匠に対する「なぜ撮った?」というやるかたない想いだけが残るのであった。


『ジェミニマン』19・米
監督 アン・リー
出演 ウィル・スミス、メアリー・エリザベス・ウィンステッド、クライヴ・オーウェン、ベネディクト・ウォン
 
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