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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』

2017-12-18 | 映画レビュー(す)

ライアン・ジョンソン監督作の魅力の1つは“捻じれ”だ。
『LOOPER』の未来から襲い来る自分を殺さなくてはいけないが、同時に自分も死ぬことになってしまう捻じれ。
『ブレイキング・バッド』第60話『オジマンディアス』の、「オマエはバカだ」と妻を罵りながら家族を守ろうとするウォルター先生の捻じれ。
どちらの作品もその捻じれの先で、主人公は“落とし前”をつけようとしていく。

 『最後のジェダイ』は『フォースの覚醒』の明朗さとは正反対の、捻じれに捻じれた複雑なドラマだ。
前作で壮絶な死闘を演じたレイとカイロ・レンだが、覚醒したフォースによって呼応し合っていく。孤独な魂が呼び合うかのような2人にはスター・ウォーズ史上類を見ないセクシャルな匂いが漂う。これは互いを運命の相手と錯覚し、破局する男女を描いた愛憎のラブストーリーではないのか。スリリングな化学反応を起こすデイジー・リドリーとアダム・ドライバーは共に運動神経も良く、アクションが良く映える。ライトセーバーを使った乱戦シーンはシリーズ屈指の立ち回りだ。

そしてついに登場したルーク・スカイウォーカーの物語は非常に複雑な捻じれを見せ、その宿命の環を閉じる事となる。
人知れず悪の銀河皇帝を倒し、実の父を失った『ジェダイの帰還』の彼の孤独を思い出そう。銀河の命運を救った英雄は決して幸福と呼べる人生を送ってはこなかった。ジェダイを再興すべく12人の弟子とベン・ソロを連れたルークはある事件によって全てを失ってしまう。この弟子の人数からも察せられるように、スター・ウォーズ史上初の回想シーンには宗教的モチーフが多く散りばめられ、ジェダイとシスという善悪二元論が今一度、脱構築されている。一瞬とは言え、ベンへの恐怖に負けたルークもまたダークサイドに落ちたのだ。彼の挫折と厭世に、ヒーローにもジェダイにもなれなかった僕たちは自身の姿を見出す。それはスター街道を歩む事がなかったマーク・ハミルの俳優人生とも二重写しとなり、僕たちはその味わい深い演技に浸るのである。声優としてキャリアを研鑽し、ライアン・ジョンソンの脚本に納得できずも全うした彼のプロフェッショナリズムを見よ。遥か昔、二重の太陽の先に世界を夢見た気持ちを思い出させようとする師ヨーダとの語らいは本作で最も感動的な場面だ。

映画はルークの“落とし前”によってスカイウォーカーの血統や、さらには旧三部作主義のファン、そしてジョージ・ルーカスから解放されていく。ジェダイやシス、スカイウォーカーの名を連呼する“旧い悪役”スノークは醜悪な老人に過ぎず、存在する余地がない彼はあっさりとカイロ・レンに切り捨てられる。そしてレイがスカイウォーカーの血統である必要はまるでなく、誰でもない子のレイから世界のどこかで宇宙を見上げる少年へとバトンは受け継がれていく。そう、『スター・ウォーズ』とは何者でもない青年が世界へ旅立つ、みんなの物語だったではないか。『フォースの覚醒』直後から始まることもあってか、前後編2部作と呼べる『最後のジェダイ』の完成をもってようやく新シリーズは始まった感がある。

子供たちよ、映画館へ行こう。スクリーンの向こうに冒険が待っているぞ。

『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』17・米
監督 ライアン・ジョンソン
出演 デイジー・リドリー、マーク・ハミル、アダム・ドライバー、ジョン・ボイエガ、オスカー・アイザック、キャリー・フィッシャー
 
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『スパイダーマン:ホームカミング』

2017-08-22 | 映画レビュー(す)

スパイダーマンがマーヴェルに帰ってきた。
 実は映画化権がソニーにあり、今回は特別契約でマーヴェル・シネマティック・ユニバース(MCU)へ合流という、オトナの事情をクリアした再リブート作だ。トム・ホランド版スパイディ初お目見えとなった『シビル・ウォー』の続編となるため、蜘蛛に噛まれてスーパーパワーを手に入れた話もベン叔父さんが殺された話も“知ってるでしょ?”と割愛。アベンジャーズ入りを夢見る高校生ピーター・パーカーを何とジョン・ヒューズ風に描くという大胆アレンジだ。最近のマーヴェルは本筋(『キャプテン・アメリカ』シリーズや『アベンジャーズ』シリーズ)をルッソ兄弟に手堅くまとめさせながら、ジェームズ・ガンやタイカ・ワイティティ、そして本作のジョン・ワッツら個性派監督を招聘してMCUに新風を吹き込む余裕っぷりである。

何より注目したいのはキャスティングのダイバーシティ化だ。
 いわゆる白人のジャンルであった“学園モノ”に多種多様な人種のキャストが揃っており、驚かされる。この傾向は今年上半期の大ヒットドラマ『13の理由』でも顕著だったが、元来本作の舞台クイーンズはじめアメリカの当たり前の光景であり、それが表現として可視化されたのが今年である理由は言わずもがなであろう。ドラマや映画で描かれる学校がようやくリアルになったという意味で、この2作は今年の最重要作だ。中でもゼンデイヤ扮するキャラクターは…おっと、これは見てのお楽しみだが、この配役ができるという事は極端な例え、『美女と野獣』のヒロインを白人以外でも演じられる時代が来るという意味だ。とても嬉しいことじゃないか。

今やMCUの代名詞であるキャストアンサンブルの活気は今回も好調だ。屈託なく、弾けるようなトム・ホランド君を座長ダウ兄(註:ロバート・ダウニーJr.)が久々のちょいワル社長モードで援護。こちらも久々の俳優専任ジョン・ファブローが楽し気だ。悪役ヴァルチャーには『バットマン』も
『バードマン』も演ったマイケル・キートンが扮し、ノってる熟練の凄味で充実だ(それにしてもほんの数年前までB級落ちしていた人とは思えない活躍っぷり!)。このブルーカラー労働者であるヴァルチャーが大企業スタークによって仕事を奪われるところから映画は始まるのだが、社長(そしてアベンジャーズ)の責任を問わないのは前作『シビル・ウォー』との差別化だろうか、それとも本作のトーンにそぐわないからか。『スパイダーマン』の大きな主題である“大きな力には大きな責任が伴う”のためには必要なモチーフだと思うのだが…。

 学園パートがあまりに楽しいため「ホランド君が声変わりする前に急いで続編撮って!」と思ったら、今年21歳ってあの変声期みたいな声、地声かよ!!


『スパイダーマン:ホームカミング』17・米
監督 ジョン・ワッツ
出演 トム・ホランド、ロバート・ダウニーJr.、マイケル・キートン、ジョン・ファブロー、ローラ・ハリアー、ゼンデイヤ、マリサ・トメイ
 
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『スノーホワイト 氷の王国』

2017-05-04 | 映画レビュー(す)

 グリム童話『白雪姫』を『ゲーム・オブ・スローンズ』風にアレンジした前作『スノーホワイト』は大ヒットを記録したものの、監督ルパート・サンダースと主演クリステン・スチュワートの不倫スキャンダルによって続編企画は空中分解。そこで今やマーヴェルの雷神サマ役で一枚看板を持つクリス・ヘムズワースが演じた狩人=THE Huntsmanの単独主演作へとスピンオフした。

ハッキリ言って誰の目からも明らかな地雷案件にも関わらず、ジェシカ・チャステイン、エミリー・ブラントという実力派女優が合流。さらには前作で悪の女王ラヴェンナを演じ、場外弾を放ったシャーリーズ・セロンまでもが再登板。案の定、映画はヒットしなかったが、人気俳優達の楽し気なコスプレ合戦は見ていて寛容な気分になる。公開当時、番宣で顔を揃えていた4人のトークはいつも面白おかしく、彼らの仲の良さが伝わってくる活気にあふれたものだった(お姉さん方にイジられるヘムズワースの可愛がられっぷりといったら!)。

 チャステインはかねてから「女優にもアクション演らせろ!」と公言しており、今回はお色気シーンもあって所謂ハリウッド映画のアクションヒロインをこなしている。彼女の知性がどこまでこれを許したのかわからないが、懲りずに続けて欲しいものだ。ブラントはさすがの器用さで“アナ雪”よろしくなコスプレっぷりである。セロンは
『マッドマックス/怒りのデス・ロード』の後では余戯みたいなものだが、こういうジャンル映画での彼女のフルスイングはいつ見ても清々しい。

 人生に影響しない1本だが、彼女らのファンなら押さえて損なしだ。


『スノーホワイト 氷の王国』16・米
監督 セドリック・ニコラス・トロイヤン
出演 クリス・ヘムズワース、ジェシカ・チャステイン、エミリー・ブラント、シャーリーズ・セロン
 
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『スター・トレック BEYOND』

2016-12-07 | 映画レビュー(す)

 今年のハリウッド夏興行はからきしダメだった。大ヒットしたのはディズニーアニメとホラーだけで、屋台骨とも言える大作・続編群は金に目が眩んで製作を急いだ開発不足ぶりが目立った。本作も期待されたほどの収益を上げられず…いや、ちょっと待て。60ウン年に及ぶ長寿シリーズが今更そんなケチをつけられる謂れはない。オタク系喜劇俳優サイモン・ペッグを脚本に迎えた本作の精神はトランプ時代の今だからこそキラ星の如く輝きを放っている。

これまでの監督J・J・エイブラムスが離脱した事でタメがなく、せわしない演出からも、オールドファン向けのマニアックなネタでくすぐるドヤ顔演出からも解放され、いわば『スター・トレック』らしい安さとタルさが取り戻されているのが特徴だ。謎の惑星のセットはどこか安っぽい手作り感に溢れており(後半の舞台となる宇宙コロニーの精緻なCGから逆算すると明らかに演出)、そこでは離ればなれになったクルー達がいつもと違うカップリングで行動していく。カークとチェコフ、マッコイとスポック、ウフーラとスールー、そしてスコットと新キャラのジェイラーだ。3作目ともなるとキャストアンサンブルもまさにあうんの呼吸。見ていて実に小気味良く、一生続けて欲しいくらいだ。ジェイラー役ソフィア・ブテラも素顔を見せないのに何とも魅力的に好演している。

敵役クラールの正体についてここでは伏せるが、“旧き良き時代”への回帰を目指し、混乱を招こうとする彼とエンタープライズ号の戦いは今年、大統領選によって分断されたアメリカの理念の衝突にも重なる。「俺が生まれた時代は違う」と言い放つカークが背負うのは、人種も性別も星すらも超えて結びつくエンタープライズ号という人類共存の理想そのものである。『スター・トレック』とは60年前からアメリカのみならず世界中がジレンマとして抱えてきた理想を具現化してきたシリーズであり、こんな時代だからこそ今一度その真価を認められるべきであろう。題材と時代の接点を見出している事はもとより、反抗の精神をビースティ・ボーイズで表現したペッグの脚本はもっと評価されるべきだ。
 そしてレナード・ニモイとアントン・イェルチンに捧げられたクルー達の優しさに、僕はたまらなく泣けてしまったのだった。


『スター・トレック BEYOND』16・米
監督 ジャスティン・リン
出演 クリス・パイン、ザッカリー・クイント、ゾーイ・サルダナ、カール・アーバン、サイモン・ペッグ、アントン・イェルチン、ジョン・チョウ、ソフィア・ブテラ、イドリス・エルバ
 
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『スポットライト 世紀のスクープ』

2016-12-07 | 映画レビュー(す)

 2015年のアカデミー作品賞受賞作。全米賞レースを席巻したジャーナリズム映画の新たな傑作だ。2002年、ボストングローヴ紙の特集コーナー“スポットライト”がカトリック教会による児童性虐待を報じるまでを描いた本作は、事件の全容や一大センセーションとなった結果よりも調査報道における情熱と探求心を描いたという点で、名作『大統領の陰謀』の直径子孫のような印象を受けるが、大きな違いは現代における紙媒体ジャーナリズムの衰退が背景にある事だろう。何の変哲もない地方紙記者4人がやがて世界的スキャンダルを暴きだすダイナミズムは、個と全がつながる報道の本質であり、本作はそんなしばしば忘れられてきたジャーナリズムへ称賛を捧げている。

この事件の特殊さはボストンという一種の“村社会”の閉鎖性にあるのだろう。2人に1人がカトリック信者という信仰心の篤さと貧富の格差。それらが神父や教会の傲慢さを助長し、周囲の人々に見て見ぬふりをさせたのではないだろうか。トム・マッカーシー監督は事件に対する各人のリアクションに注目し、素晴らしいアンサンブルを生み出した。中でも学生時代の教師(神父)によるいたずらを、自分にはふりかからなかったばかりに“何でもない事”として記憶の奥底に閉まっていた事に気付くマイケル・キートンの演技は、この老優がキャリアの円熟期に入った事を証明している。

しかし、この映画の最も強烈な演技はスター俳優たち以上に真に迫る被害者役の無名俳優達だ。一見、社会に溶け込んでいるように見えて明らかに居場所を失くしてしまった人々の心のズレをその誰もがさり気なく演じており、まるで当事者ではないかと錯覚してしまうような迫力がある。この演出こそ俳優出身監督マッカーシーの真骨頂ではないか。

 神父から受けた虐待は神に裏切られた事と同義であり、魂に対する虐待である。声をあげる事のできなかった被害者達の苦しみに光を当て、調査報道の重要性を知らしめた意義深いオスカー受賞であった。


『スポットライト 世紀のスクープ』15・米
監督 トム・マッカーシー
出演 マイケル・キートン、マーク・ラファロ、レイチェル・マクアダムス、スタンリー・トゥッチ、リーヴ・シュライバー
 
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