リッスン・トゥ・ハー

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その2(市民プール編)

2008-02-17 | リッスン・トゥ・ハー
マグロが泳いでいた。
広く深い海ではない、25m×16mの市民プールの中を泳いでいた。
記録的な猛暑のもとで人々はこぞって水に浸かっていたのだから、そこに時価にして300万はするであろう黒マグロが混ざっていても何ら不思議ではない。
監視員をはじめ、泳ぐ人はマグロのしなやかな泳ぎっぷりを見て、よだれを垂れ流し、プールの水かさは増していた。
その、いくぶん粘り気が増した市民プールの中を、気にすることなくマグロはぐんと進んだ。
ひと掻きで25m進むものだから、マグロはひと掻きごとにターンをしなければならなかった。端に近づくとマグロはくるり見事に回って、足で壁を蹴る。また25m進んでくるりと回って足で蹴る。
マグロはとてもつまらなそうな顔で、それを淡々と繰り返していた。
ふとプールの縁を女の子とその母親らしきふたりが歩いてきた。女の子は泳いでいるマグロをちらりと見て、「シゲ子さん、魚介類が水泳キャップ着用してない」とつぶやいた。
マグロだと認識されなかった自分を恥じたのだろうか。
あるいは女の子のアニメプリントの面積の小さなビキニに反応したのだろうか。
あるいはそろそろ泳ぐことに飽きただけなのだろうか。
マグロは、けーん、とひとつ鳴いて跳ね上がった。
マグロの筋肉を余すことなく利用して、跳ね上がったマグロはうまく上昇気流に乗った。空に白い気流を引いてマグロは山の向こうへ消えてしまい、その後を追うように入道雲が空を覆った。


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