リッスン・トゥ・ハー

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象の墓場

2007-01-29 | 掌編~短編
象は、僕らが動物園なんかで見るそれでなくて、自然の中でありのままに生きている象は、自分の死が近づいたのを知ると、みな同じ場所へ向かうんだ。本能のままに歩き続けてある日たどり着くその場所は、ふわふわと穏やかな風が吹いていて、時々雨が降るけれど、決して強いのでなくて、やわらかい布のように、肌をしっとり濡らし、食べ物もたんとあり、何より、世界中から集まってきた同じ境遇にある仲間たちがいて、ちょっぴり俗っぽい噂話なんかして過ごしている。誰にも邪魔されずに。そこは本当に安らげる場所なんだ。

>誰にも邪魔されずに。例えば人間にはその場所が見つけられないの?

そう、像しか知らない。しかも、死が近くにある象にしか。本当は象であれば最初から知っている。でも、死が遠い時は巧妙に隠れている。つまり象はその場所を、近づいた死によって思い出すんだ。

>もし、その場所にもし行けたら、象牙、とり放題でしょうね

残念ながら、象牙はないと思うよ。

>どうして?

象の墓場には象の死骸は存在しない。死によって象は、象であることから解放される。解放された象、あるいはかつて象であったものはこの世界とは別の世界に到達する。そのために象は墓場へ向かうんだ。

>うーん、なんだか難しいけど、なんか宗教的な話ね。でもそんなことなんで知ってるの?象しか知らないんでしょ?

簡単な事だよ、僕は像なんだ。

>はあ、そうすか

信じてないだろうけど、本当なんだ。しかも、死が近くにある。

>うん、信じられない、しかも死が近いって、やめてよ。

僕だって止めれるのなら止めたいよ。


そう語っていた同期の裕樹が会社をやめて、いなくなってしばらく経つ。
象の彼はきっと墓場に向かったんだ。墓場で他の象たちとちょっぴり俗っぽい噂話なんかしながら、近い未来にやってくる死を待っているんだ。あるいは、それは幸せであるような気がした。「僕だって止めれるのなら止めたいよ」と言った彼は確かほのかに微笑んでいたし。
ふっとそんなことを考えてから私は、冷めた珈琲を飲み干し、意味のないいくつかの書類を作るために、キーボードを叩き続けた。

こんな夢を見た070129

2007-01-29 | 若者的白夢
こんな夢を見た。旅館のようなところで、右小指で右耳をほじっていると、奥に詰まっていた、丸まった白い紙がぬぬぬぬぬとでてくる。白い紙は何度でもほじるたびに勢い衰えずにぬぬぬぬぬとでてくるから、わたしは少し心配になる。耳に詰まっている白い紙の終りが分からず心配になる。長い白い紙がでても、別段気持ちよくもなく、ただ何かがぬぬぬぬぬと出ているという感じ。旅館で食事がはじまりそう。目覚め。