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国会の怪時計-その4

昭和40年12月28日 朝日新聞朝刊

「参院の怪時計」
針が牛歩・ストップ 補正予算の成立に協力


27日、今年度の第3次補正予算案を審議した参院本会議場の大時計が午後3時少し前に突然、狂い出して時の刻み方が遅くなった。そして同予算案は、「参院時間」の午後2時58分に可決―。とみるまに大時計の分針はぐんぐん歩みを速めて、間もなく「標準時間」に追いついた。

この日午後3時までに予算案が成立しないと、同日中の大蔵省証券の増額は見送られ、日銀にある政府の「預金通帳」は赤字になる心配があるし、国家公務員のベースアップやボーナスの追加分の28日支給もあぶないとあっての苦肉の策。

「時計が遅くなったり早くなったり。こんな便宜主義がまかり通るようでは・・・」という声も上がっている。
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この日正午すぎ、参議院議長は各党代表に、午後3時までに予算案を成立させないと、日銀が国庫支出金をこの日中に払出せないので、協力して欲しい、と要請、各党もこれを了承した。だが、予算委の審議が長引いたため、午後1時すぎには、廊下を行き来する公務員たちの間で3時に間に合うかどうか不安がる声も出始めた。

そんな空気の中で午後2時24分、本会議が開会した。委員長報告が10分、野党の反対討論が合計30分予定されている。3時には、とても間に合いそうにないがいったい、どうなるんだろう―。

予算委員長の報告が同35分に終わる。社会党議員が20分の予定の反対討論をはじめる。ところが、どうもおかしい。議場正面大時計の針がストップしているような感じなのだ。

議場の時計が2時47分をさしている時、記者たちが腕時計を見せ合って確かめた「標準時間」は2時51分だった。

社会党席がザワザワしはじめる。大矢正、柳岡秋夫両氏が腕時計を見てなにやらいっている。自民党席はニヤニヤ。公明党席では小平芳平氏が腕時計と「参院時間」を見比べている。

雛壇後部の参事席から管理部長がアタフタと議場外へ消えた。「国民不在の予算案に強く反対する」と結んで社会党議員が降壇したのが「参院時間」同52分。「標準時間」は57分。5分差だ。

こんどは公明党議員が反対討論に演壇にあがったが、マイクの前には立たず腕時計を見ながら事務総長となにかヒソヒソ。(事務総長からあとで聞いたところ「どの時計でやるのか」と聞いたので「議長のところの時計でやる」という会話をしたという)。

討論がはじまる。「標準時」3時ちょうど。参院時は2時53分。7分違う。

大時計の分針が1分進むのに何秒かかるかはかってみると120秒であった。討論は続く。56分のところで、しばらく針がストップした。

議場は野次ひとつ飛ばず、ニヤニヤ、ヒソヒソ。気味の悪い56分の長さ。やっと針が動いた。「参院時間」57分、公明党議員が降壇。いよいよ採決。起立、過半数で可決。

「参院時間」2時58分。「標準時間」3時6分40秒ぐらい。

予算が成立すると、首相ら雛壇の閣僚の多くは場外へ。議場の空気がぐっとゆるんだ。

商工委員長が登壇、委員会報告を始める。急に時計の針のテンポが変わった。1分が15秒ぐらいで動いている。3時1分~2分まではたった6秒。分針が3時9分をさした時の標準時間は13分で4分差。追いつけ、追いつけ、か。

法務委員長が報告に登壇したのは「参院時間」の3時12分、「標準時間」は3時14分と2分差に迫った。散会は「参院時間」3時16分。標準時間より1分しか遅れていなかった。

散会後、まず管理部長に会う。「ぼくは知らない。時計が止まったって、そんなことにはなってない。・・・でも、ほめられた話じゃないな」と、とぎれ、とぎれの話。

事務総長―「時計は止まりません。議運委の委員長に聞いてくれないかなあ」と困った顔。

議運委員長は全くの知らん顔。「時計が早くなったり、遅くなったりしたって―。わしはそんなことないと思っとる。とにかく予算は3時前にちゃんとあがったよ。社会、公明両党が反対討論の時間を短くしてくれたんで。間に合ったよ」。

国会とは、なんでもできるところなんだ―背すじの寒くなるような半時間だった。
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