国会のルールや決まりごとなど、議会人が備忘録を兼ねて記します。
議会雑感
国会の怪時計-その2
「国会の怪時計-その1」では、国会で「時計が止まった」かもしれない時の本会議や委員会のやり取りを紹介しましたが、そのやり取りとは、昭和22年12月9日、第1回国会会期末のことを指していました。
よって、今回は、その当日の衆参の会議録を時系列に追ってみることから、本当に「時計が止まった」のかどうかを見ていきたいと思います。
まず、簡単に流れを示します。
昭和22年12月9日で本事件に該当する会議体は、以下の4つです。
○衆議院本会議
○衆議院農林委員会
○参議院本会議
○参議院農林委員会
そして、会期内に通るか通らないか大問題になったのは、以下の4法律です。
○食料品配給公団法
○油糧配給公団法
○飼料配給公団法
○食糧管理法の一部を改正する法律
これらを踏まえた上で、当日の流れを概観します。
1. 衆議院本会議(休憩)
2. 衆議院農林委員会が4法案を採決・可決
3. 衆議院本会議(再開~散会)
4. 参議院農林委員会が4法案を採決・可決
5. 参議院本会議(再開~散会)
上記の流れだけ概観すると、手順は踏んでいるように見えなくはないのですが、会議録に残された時刻を見る限り、参議院本会議の散会時刻は、やはり午前0時を過ぎているだろうと思われるのです。
例えば、衆議院本会議の散会時刻である23時56分に参議院農林委員会が開会したかと思えば、その1分後である23時57分に参議院本会議が散会して4法案が可決・成立、となっているからです。
というわけで、上記の流れに会議録に残されている休憩・再開・散会時刻等を加えてみます。
22時20分: 衆議院本会議 休憩
22時37分: 衆議院農林委員会 開会
22時58分: 衆議院農林委員会が4法案を可決・散会
22時26分: 衆議院本会議 再開
23時56分: 衆議院本会議 4法案を可決し散会
23時56分: 参議院農林委員会 開会、4法案を可決(散会時刻は記録なし)
23時57分: 参議院本会議 4法案を可決成立し散会
以下に該当部分の会議録を抜粋していますが、やっぱりどう考えても、その時「時計は止まった」としか考えられません。
そもそも、農林委員会で可決したなら、農林委員長が本会議場に移動して、委員長報告をしない限り採決はできないからです。
1分の間に委員会を開会~可決、さらには本会議場で委員長報告~可決成立させることは無理筋な話ですが、困難な状況下において、議会の先人が知恵を振り絞った結果であり、記録だと思います。
[昭和22年12月9日 第1回国会会議録(抜粋)]
衆議院農林委員会
○衆議院農林委員長
これより各案について採決いたします。食料品配給公団法案、油糧配給公団法案及び飼料配給公団法案の……(議場騒然聴取不能)……起立を願います……(「異議あり」と呼び、その他発言する者多く聴取不能)……多数よつて……(「異議あり」と呼びその他発言する者多く聴取不能)……起立を願います……多数……(「異議あり」と呼びその他発言する者多く聴取不能)……よつて……(「異議あり」「ばか」「わからぬぞ」と呼びその他発言する者多く聴取不能)……(「あなた方これが聴えるか」「これがわかるかい」「そんな速記はたいへんだ」と呼び、その他発言する者多く聴取不能)……(聴取不能)……。
[委員長何事か宣告して退席]
時に午後10時58分
衆議院本会議
○衆議院議長
起立多数。よつて4案とも委員長報告の通り決しました。(拍手)
[発言する者多く、議場騒然]
この際議事を進行いたしましても、時間内に終了する見込みがありませんから、これにて散会いたします。
午後11時56分散会
参議院農林委員会
午後11時56分開会
○参議院農林委員長
只今より開会いたします。食料品配給公団法案、油糧配給公団法案、飼料配給公団法案及び食糧管理法の一部を改正する法律案以上4案を議題に供します。
○北村一男君
時間の関係もありますから質疑及び討論を省略して直ちに採決に入ることを希望いたします。
○参議院農林委員長
北村君の動議に御異議ありませんか。
○参議院農林委員長
御異議ないものと認めます。よつて直ちに採決に入ります。食糧品配給公団法案、油糧配給公団法案、飼料配給公団法案及び食糧管理法の一部を改正する法律案以上4案の衆議院送付案を一括して議題に供します。4案は衆議院送付案通りに可決することに賛成の諸君の御起立を願います。
○参議院農林委員長
総員起立と認めます。よつて4案は衆議院送付案通りに可決せられました。尚本院規則によりまして、多数意見者の御署名を願います。
○参議院農林委員長
本日はこれにて散会いたします。
参議院本会議
○参議院議長
この際日程に追加し、食料品配給公団法案、油糧配給公団法案、飼料配給公団法案、食糧管理法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)、以上4案を一括して議題とすることに御異議ございませんか。
(「異議なし」と呼ぶ者あり)
○参議院議長
御異議ないと認めます。先ず委員長の報告を求めます。農林委員長楠見義男君。
[楠見義男君登壇、拍手]
○参議院農林委員長
只今議題となりました4つの法律案につきまして、農林委員会における審議の経過並びに結果を御報告申上げます。
これらの法案は、御承知のごとく食料品、油糧、飼料及び食糧についてそれぞれ従来の統制方式を廃し、新たに公的機関により、政府責任体制の確立への切換を目的といたしたものであります。委員会はあらゆる角度から又詳りに亘つて慎重審議をいたしたのでありまするが、その結果本件についてはいろいろの問題はございますけれども、現在の我が国の国情並びに食糧事情からいたしまして、その制定亦止むを得ざるものと認め、即ち討論を省略し、採決をいたしましたところ、各委員の全会一致の局意を以ちまして、本4法案は亦可決すべきものと認めた次第でございます。以上委員会における審議の経過並びに結果を御報告申上げます。
○参議院議長
別に御発言もなければ、これより……(「議長、議事進行について」と呼ぶ者あり)
○参議院議長
4案の採決をいたします。4案全部を問題に供します。4案に賛成の諸君の起立を請います。
[起立者多数]
○参議院議長
過半数と認めます。よつて4案は可決せられました。これにて散会いたします。(拍手)
午後11時57分散会
よって、今回は、その当日の衆参の会議録を時系列に追ってみることから、本当に「時計が止まった」のかどうかを見ていきたいと思います。
まず、簡単に流れを示します。
昭和22年12月9日で本事件に該当する会議体は、以下の4つです。
○衆議院本会議
○衆議院農林委員会
○参議院本会議
○参議院農林委員会
そして、会期内に通るか通らないか大問題になったのは、以下の4法律です。
○食料品配給公団法
○油糧配給公団法
○飼料配給公団法
○食糧管理法の一部を改正する法律
これらを踏まえた上で、当日の流れを概観します。
1. 衆議院本会議(休憩)
2. 衆議院農林委員会が4法案を採決・可決
3. 衆議院本会議(再開~散会)
4. 参議院農林委員会が4法案を採決・可決
5. 参議院本会議(再開~散会)
上記の流れだけ概観すると、手順は踏んでいるように見えなくはないのですが、会議録に残された時刻を見る限り、参議院本会議の散会時刻は、やはり午前0時を過ぎているだろうと思われるのです。
例えば、衆議院本会議の散会時刻である23時56分に参議院農林委員会が開会したかと思えば、その1分後である23時57分に参議院本会議が散会して4法案が可決・成立、となっているからです。
というわけで、上記の流れに会議録に残されている休憩・再開・散会時刻等を加えてみます。
22時20分: 衆議院本会議 休憩
22時37分: 衆議院農林委員会 開会
22時58分: 衆議院農林委員会が4法案を可決・散会
22時26分: 衆議院本会議 再開
23時56分: 衆議院本会議 4法案を可決し散会
23時56分: 参議院農林委員会 開会、4法案を可決(散会時刻は記録なし)
23時57分: 参議院本会議 4法案を可決成立し散会
以下に該当部分の会議録を抜粋していますが、やっぱりどう考えても、その時「時計は止まった」としか考えられません。
そもそも、農林委員会で可決したなら、農林委員長が本会議場に移動して、委員長報告をしない限り採決はできないからです。
1分の間に委員会を開会~可決、さらには本会議場で委員長報告~可決成立させることは無理筋な話ですが、困難な状況下において、議会の先人が知恵を振り絞った結果であり、記録だと思います。
[昭和22年12月9日 第1回国会会議録(抜粋)]
衆議院農林委員会
○衆議院農林委員長
これより各案について採決いたします。食料品配給公団法案、油糧配給公団法案及び飼料配給公団法案の……(議場騒然聴取不能)……起立を願います……(「異議あり」と呼び、その他発言する者多く聴取不能)……多数よつて……(「異議あり」と呼びその他発言する者多く聴取不能)……起立を願います……多数……(「異議あり」と呼びその他発言する者多く聴取不能)……よつて……(「異議あり」「ばか」「わからぬぞ」と呼びその他発言する者多く聴取不能)……(「あなた方これが聴えるか」「これがわかるかい」「そんな速記はたいへんだ」と呼び、その他発言する者多く聴取不能)……(聴取不能)……。
[委員長何事か宣告して退席]
時に午後10時58分
衆議院本会議
○衆議院議長
起立多数。よつて4案とも委員長報告の通り決しました。(拍手)
[発言する者多く、議場騒然]
この際議事を進行いたしましても、時間内に終了する見込みがありませんから、これにて散会いたします。
午後11時56分散会
参議院農林委員会
午後11時56分開会
○参議院農林委員長
只今より開会いたします。食料品配給公団法案、油糧配給公団法案、飼料配給公団法案及び食糧管理法の一部を改正する法律案以上4案を議題に供します。
○北村一男君
時間の関係もありますから質疑及び討論を省略して直ちに採決に入ることを希望いたします。
○参議院農林委員長
北村君の動議に御異議ありませんか。
○参議院農林委員長
御異議ないものと認めます。よつて直ちに採決に入ります。食糧品配給公団法案、油糧配給公団法案、飼料配給公団法案及び食糧管理法の一部を改正する法律案以上4案の衆議院送付案を一括して議題に供します。4案は衆議院送付案通りに可決することに賛成の諸君の御起立を願います。
○参議院農林委員長
総員起立と認めます。よつて4案は衆議院送付案通りに可決せられました。尚本院規則によりまして、多数意見者の御署名を願います。
○参議院農林委員長
本日はこれにて散会いたします。
参議院本会議
○参議院議長
この際日程に追加し、食料品配給公団法案、油糧配給公団法案、飼料配給公団法案、食糧管理法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)、以上4案を一括して議題とすることに御異議ございませんか。
(「異議なし」と呼ぶ者あり)
○参議院議長
御異議ないと認めます。先ず委員長の報告を求めます。農林委員長楠見義男君。
[楠見義男君登壇、拍手]
○参議院農林委員長
只今議題となりました4つの法律案につきまして、農林委員会における審議の経過並びに結果を御報告申上げます。
これらの法案は、御承知のごとく食料品、油糧、飼料及び食糧についてそれぞれ従来の統制方式を廃し、新たに公的機関により、政府責任体制の確立への切換を目的といたしたものであります。委員会はあらゆる角度から又詳りに亘つて慎重審議をいたしたのでありまするが、その結果本件についてはいろいろの問題はございますけれども、現在の我が国の国情並びに食糧事情からいたしまして、その制定亦止むを得ざるものと認め、即ち討論を省略し、採決をいたしましたところ、各委員の全会一致の局意を以ちまして、本4法案は亦可決すべきものと認めた次第でございます。以上委員会における審議の経過並びに結果を御報告申上げます。
○参議院議長
別に御発言もなければ、これより……(「議長、議事進行について」と呼ぶ者あり)
○参議院議長
4案の採決をいたします。4案全部を問題に供します。4案に賛成の諸君の起立を請います。
[起立者多数]
○参議院議長
過半数と認めます。よつて4案は可決せられました。これにて散会いたします。(拍手)
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