読書感想日記

最近読んだ本の感想

『神無き月の十番目の夜』 飯島 和一 著 河出書房新社

2008-11-30 01:02:23 | 歴史物
 恐らく、人々が農耕によって生活を営みはじめて以来、日本中の村それぞれにおいて、山や森、川、沼には、村人しか知らない拠り所…神とつながる特別で神聖な場所…「サンリン」「カノハタ」…があり、また、風習や言い伝えられてきた「生き地蔵」「鮑茸」「錦木」…と、先祖から代々守られてきたものがあり、更には、村中の人々が、家族を、生活を、村を守るべく受け継いできた、人間どうしのつながりが、あったのでしょう。
 そして、日本中に点在する数多くの村の中でも、人々のつながりが強い村、人々のプライドが高い村では、恐らく、ここ小生瀬の地と同じような出来事が、起きたのではないだろうか。
 それは、地域を新たに支配することを目指す者と、元々その土地に住む人々との関係の難しさ、そして、まとまっているはずの村の人々の心が離れ、次第に他人同士となってしまう寂しさ…
 平穏に生きていたところへ、突然に、自分のことがかわいいという当たり前の感情で生き延びるべきか、それとも周囲の人々のために生き、そして死ぬべきか、という問題に直面したとき、一体どうしたらよいのでしょう…
 そもそも、人は「何のために生き、死ぬ」のでしょうか。家族、仲間、プライド、郷土といった、大切なものを守るためでしょうか…
 それでは、「生き延びる」ことの意味は何なのでしょうか。目標のために生き続けるのか、他人を犠牲にしてまで助かりたいのか…
 また人間は、昔から、平穏ではないときに、特定の人間をいつしか偶像化してしまい、それにすがってみたり、一方では恐れてみたりする生き物のようです。
 今回も、人間について、そして人々のつながりというものについて、とても奥の深い話しを読ませて頂きました。
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『日本幽囚記』全三巻 ゴロヴニン 著  井上 満 訳 岩波文庫

2008-11-30 00:49:54 | 歴史物
 江戸時代とはいえ、外国人船長さんの聡明さには、参りました。
 聡明な人だからこそ、外国との交渉という使命を任されたのでしょうが…
 『菜の花の沖』で、嘉兵衛さんが命を懸けて救ったゴローニン。
その彼が部下とともに、当時、野蛮で姑息と信じられている日本に囚われていた間、そこに生きている人々について記した手記と、彼らを救うために尽くしたリコルドの手記が綴られています。
 ゴローニンらの祖国ロシアと、日本双方の賢明な人々が、囚人となった者たちの処遇を、そして二国間における問題を解決しようと努力している姿には、私と彼らとの器の大きさの違いを感じつつも、つい応援してしまいます。
 また、日本の一般の人々や、ゴローニンらに接する下級役人たちの人柄の良さにはほっとするものがあります。
 そして、日本の役所の慣習といいましょうか、様式にはこだわるものの、大局的な判断はなかなかできない、という原型は、このころには出来上がっていたようです…

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『聖断』昭和天皇と鈴木貫太郎 半藤 一利 著 PHP研究所

2008-11-20 23:26:50 | 歴史物
 自分の使命を、そして責任を、最期まで果たそうとする者たち。これは、ほんの数十年前の日本人の姿である。
 その人々が、自らの名誉はおろか生命を捨ててまで、必ずや復興してくれると信じた未来の日本、つまり今の日本を見たら、果たして何と思うだろうか…
 物質面や経済面での目覚ましい発展に比べて、精神的に空っぽな民族に衰退してしまったことを嘆くのではないだろうか。
 日本という私たちの住む国を大切に思い、守ろうとすることは、恥ずかしく、卑しいことなのだろうか…
 国民の生活を守るため、と信じて決起した青年将校らによる様々な事件。
 日本民族の生活を守るため、と信じて諸外国へ侵略していく者たち。
 軍の力に屈し、国民を誤った方向へ導くばかりのマスメディア。
 だが、敗戦へ突っ走る軍や扇動された国民にも、本土への新型爆弾攻撃、ロシアによる侵攻によって次第に望まれてくる結論…
 それは誰もがやらねばならないと、誰かがやらねばならないと、本当はわかっていた「終戦」への手続き。この不名誉で重大な使命に自らの人生をかけたのが、宮城に仕え、裕仁天皇からの信頼が厚かった二人の男である。
 彼らが、敗戦に次ぐ敗戦で引くに引けなくなった結果、国民を道連れにしようとしている軍を従わせるために『彼らでなければできない方法』を実行する。これは『天皇陛下が聡明であるが故にできた結論』であったが、あまりにも遅すぎた幕引きであろう…
 人類の歴史は、人間がそのほとんどの原因を造り出しているのではあるが、ほんの僅かなすれ違いを引き起こして重大な結果を招いてみたり、さりげなく巡り合わせを下準備しておいて、幸運な結果をもたらしてみたり、もしかすると、本当は神様のような存在が造り出しているのか…と思ってしまった。
 また、なぜ『結論』が遅くなったのか、少しではあるが自分なりに理解できたように思う。
 そして「国を大切にする」という思いは同じであっても、その目標や表現方法によって全く異なったものとなってしまう、というところに、深く考えさせられるものがあった。
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『黄金旅風』 飯島 和一 著 小学館

2008-11-08 18:11:50 | 歴史物
 はじめは、その記述の丁寧さに少々とまどい、また、地球規模的な広がりの話しに、資料として地図が付いていたら…等と自分の力量不足、知識不足を棚に上げつつ、お散歩しているくらいの感じで読みはじめました。
 人々が社会に流されつつも型にはまって日々を過ごしているのに対して、正論を唱えて生きている者が理解されずに困り者扱いされてしまうのは、今でもありうることなのかもしれません。
 愚かな者がトップに立った社会での、名誉を得るためだけに特定の宗教に対する理由もない弾圧、私腹を肥やすため数々の所業、それらを知っていても何もできない人々…そんな中で、異質扱いされる者二人が、友として互いに自分の信念に生きるために支え合う姿は、友人の少ない私にとって、とてもうらやましい限りでした。
 そして、ともに体を張って、最期までそれぞれにとって「大事なこと」を果たそうとする姿は、王道であり格好いい、と憧れているうちに読み終えていました。
 男たちへの憧れが冷めぬまま、ふと、私にとって「大事なこと」とは一体何なのだろう、大切な人を守っているだろうか…やるべきことの責任を果たしているだろうか…と考えてみると、それは考えるまでもなく、全く恥ずかしい限りの結論でしかないものでした。
 尊敬というか、憧れる人物を見つけることができ、とても面白く読ませて頂きました。
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