読書感想日記

最近読んだ本の感想

『聖断』昭和天皇と鈴木貫太郎 半藤 一利 著 PHP研究所

2008-11-20 23:26:50 | 歴史物
 自分の使命を、そして責任を、最期まで果たそうとする者たち。これは、ほんの数十年前の日本人の姿である。
 その人々が、自らの名誉はおろか生命を捨ててまで、必ずや復興してくれると信じた未来の日本、つまり今の日本を見たら、果たして何と思うだろうか…
 物質面や経済面での目覚ましい発展に比べて、精神的に空っぽな民族に衰退してしまったことを嘆くのではないだろうか。
 日本という私たちの住む国を大切に思い、守ろうとすることは、恥ずかしく、卑しいことなのだろうか…
 国民の生活を守るため、と信じて決起した青年将校らによる様々な事件。
 日本民族の生活を守るため、と信じて諸外国へ侵略していく者たち。
 軍の力に屈し、国民を誤った方向へ導くばかりのマスメディア。
 だが、敗戦へ突っ走る軍や扇動された国民にも、本土への新型爆弾攻撃、ロシアによる侵攻によって次第に望まれてくる結論…
 それは誰もがやらねばならないと、誰かがやらねばならないと、本当はわかっていた「終戦」への手続き。この不名誉で重大な使命に自らの人生をかけたのが、宮城に仕え、裕仁天皇からの信頼が厚かった二人の男である。
 彼らが、敗戦に次ぐ敗戦で引くに引けなくなった結果、国民を道連れにしようとしている軍を従わせるために『彼らでなければできない方法』を実行する。これは『天皇陛下が聡明であるが故にできた結論』であったが、あまりにも遅すぎた幕引きであろう…
 人類の歴史は、人間がそのほとんどの原因を造り出しているのではあるが、ほんの僅かなすれ違いを引き起こして重大な結果を招いてみたり、さりげなく巡り合わせを下準備しておいて、幸運な結果をもたらしてみたり、もしかすると、本当は神様のような存在が造り出しているのか…と思ってしまった。
 また、なぜ『結論』が遅くなったのか、少しではあるが自分なりに理解できたように思う。
 そして「国を大切にする」という思いは同じであっても、その目標や表現方法によって全く異なったものとなってしまう、というところに、深く考えさせられるものがあった。
コメント
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