読書感想日記

最近読んだ本の感想

「閉鎖病棟」 帚木 蓬生 著 新潮文庫

2009-06-27 20:35:28 | 小説
 はじめのうちは、登場する人々のことを、無意識に見下し、笑ってしまっていた私。
 私は、人間とは、誰もが、それぞれの人生を主役として生きているものだ、と当然のように思いこみ、そうでない人は可哀想、等と勝手に蔑む気持ちが心の片隅にあったのです。
 しかし、彼らはみな、一人一人が人格を持っているし、心が通い合い、助け合いながら生きています。
 その姿は、まさに普通の人々と、何にも変わりません。
 それなのに、彼らのことを、生まれたときから、又は、ある瞬間から、一括りに「特別な患者」として蔑み、その人格さえ無視してしまう…
 最も身近なはずの家族でさえ、彼らの存在自体を意識的に忘れてしまおうなんて思われてしまう…それが今の世の中なんだ…
 この思いこみは、次第に突き崩され、私の驕りでしかないことに気付きました。
 そして読み返すことで、いつ私が彼らと同じ境遇になったとしても不思議ではない、ということを思い知らされました。
 ついには、彼らの方が、私よりも人間らしく生きている、ということを教えられ、思い上がっていた自分が、恥ずかしくてたまりません。

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「猫別れ」 猪本 典子 著 ポプラ社

2009-06-27 20:10:18 | 随筆
 読み進むほどに、私も、結構、猫が好きなんだな…と気付きました。
 ここには、猫の何気ない行動、猫と著者との普段の生活が淡々と記されています。
 その、さりげない表現に、猫に対する暖かい視線、優しさを感じます。
 そのためか、終盤へ近づくに連れて、無意識に、読み進むことを度々中断してしまいました。
 それは、もう1ページ先に、いや、もう1行先に書いてあるであろう「そのとき」を迎えてしまうことに対するためらい、あるいは、その瞬間をほんの少しでも遅らせたい、という思いが、そうさせていたのでしょうか…
 昔、ほんの数年の間でしたが、一緒に暮らした猫が「そのとき」を迎えた後の、言葉にならない思いがよみがえるとともに、また、今、家族の一人である10歳を過ぎた猫が、体調を崩していたため、とても心配だったこととも重なって、我が家の猫が無事であることを、何度も何度も確認してしまいました。
 いつまでも、猫には元気でいて欲しい。それが猫を家族に持つ人の願いです。
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「出星前夜」飯嶋 和一 著 小学館

2009-06-13 07:13:00 | 歴史物
 史実というものは、勝者側が正しかったから勝ち残り、敗者側が間違っていたから敗れ去った、として勝ち残ってきた者が残してきたものなのでしょう。
 民衆から搾取するばかりの役人、平和にあぐらをかく大名、大名の管理機関となった幕府…
 対して、教義を忠実に守り虐げられるばかりの民衆、そして彼らを救うために命をかけ、立ち上がる人々…
 自分たちの失政をひた隠す役人、いや、力に任せて幕藩体制を維持しようとする幕府側の焦りをあざ笑うようかのような人々の姿は、凛々しく、そして切なくて…しかし、史実として残るのは、結局、幕府に都合の良いことばかり…
 読み応えのある本に、出会いました。
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「ふたつの川」塩野 米松 著 無明舎出版

2009-06-13 07:09:21 | 歴史物
 私は、心のどこかで、ずっと探していた風景に、生活に、ようやく出会えたような気がしました。
 そこには、ほんの70年くらい前の日本ならば、ごく普通に見られたであろう美しい日本の光景が広がっていました。
 そして山に住み、里に住む人々は、優しく、自然を敬い、自分の仕事に誇りを持ってつつましく生きていました。
 しかし、彼らは、自分たちも属しているはずの国家という大きな力に抗うことはできず、それぞれの人生を力ずくで変えられてしまう…
 一行目から終わりまで、僅かな時間だったはずなのに、とても長い日々を彼らと一緒に生きていたように思えてなりません。
 彼らと出会えて、なぜか懐かしさでいっぱいでした。
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