俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

偽因果

2015-11-09 09:41:33 | Weblog
 昨日(8日)朝のNHKのニュース番組で嚥下食を採り上げていた。嚥下食とは、老人などが食べ易いように食材を柔らかく加工した料理だ。見た目は普通の調理品そのままであり、食感はともかく味も再現しているそうだ。これによって老人の食生活が豊かになる。
 ここまでは良かった。ところがとんでもないことを言い出した。ネットを見ながら聞き流していたので正確な数値ではないが大体こんな内容だった。「嚥下食が寿命を伸ばすことも証明されている。3年後の生存率は、点滴なら30%、胃瘻なら40%だが、嚥下食にすれば50%以上になる。」折角の情報が台無しだ。こんな馬鹿な話を根拠にすれば嚥下食が有害物にもなりかねない。
 考えればすぐに分かることだが、健康な人であれば普通の食事をする。軽い嚥下障害があれば嚥下食に頼る。嚥下食も無理な人が胃瘻を使う。胃瘻も無理であれば点滴に頼らざるを得ない。どの人が長生きできるかは、衰弱状況だけで予測できる。衰弱が酷い人ほど不自然な栄養補給に頼らざるを得ないのであって、栄養摂取方法だけで生死が決まる訳ではない。
 こんな間違った因果関係に基づいて説明をすれば、嚥下障害を起こしている人にまで無理強いをして誤嚥性肺炎を起こさせることにもなりかねない。正しい因果は「食べる能力が残っている人は長生きできる」であって「食べさせれば長生きする」ではない。増してや「無理をしてでも食べさせるべきだ」ということにはならない。
 健康に関して人体実験をすることは許されないからどうしても統計データに頼ることになるが、このデータを正しく読み取らねば誤った結論へと導かれる。
 昔こんな報道があった。高度経済成長期には寿命が延びた。平均寿命のグラフがテレビの普及率のグラフと丁度重なることを指摘して評論家が言った。「テレビが正しい健康情報を伝えるから寿命が伸びた。」全くのお笑い種(ぐさ)だ。多分、経済成長のグラフも殆んど同じように重なるだろう。このデータから読み取るべきことは、国民が豊かになったから寿命が伸びテレビの普及率も高まったということだろう。寿命の伸びとテレビの普及率の上昇はどちらも豊かさの結果であってこの二者に因果関係は無い。
 食べる能力が残っていれば極力自力で食べたほうが良いが、能力が損なわれている人にまで無理強いをすれば却って有害だ。因果関係を正しく捕える必要がある。こんな番組を作るNHKのスタッフには因果性の理解が欠けており、こんな番組を見た多くの視聴者が誤った理解をしてしまうだろう。

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