■「年収が高くないから無関係」は大間違い
「残業代ゼロ」制度の原案が厚労省の審議会で示された。この制度は管理職以外の労働者の深夜労働、日曜・祝日労働などの労働時間規制の適用を外し、「残業代」の支払い義務をなくすものだ。
第1次安倍晋三政権下で導入が提案されたが、世論の反対に加えて、参院選を控えて断念した経緯がある。第2次安倍政権下で今度はアベノミクスの成長戦略の労働改革の目玉として、装いを変えて再浮上した。安倍首相にとってはリベンジの産物。しかも12月の総選挙で与党が圧勝し、制度の導入を阻む障害がなくなり、法案成立の可能性は極めて高い。
新制度の名称は「高度プロフェッショナル労働制」と呼び、対象業務は、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)、コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務)、研究開発業務等。年収基準も1075万円以上の人が対象だ。
現状、年収1000万円以上は管理職も含めて3.9%しかいない。一見すると、ほとんどの人は「自分の仕事は対象業務ではないし、年収も高くないので関係ない」と思うかもしれない。
しかし、そんなことはないのだ。
具体的な対象業務と年収基準は法律に明記されることはなく、「省令」に書き込むことになっている。法律に書くと、内容を変えるにはその都度、法改正が必要になり、与野党の国会審議を経なければならない。しかし、法律より格下の省令は国会審議を経ることなく、政府の意向で自在に変更できる。
対象業務については法律では「高度の専門的知識等を要し、業務に従事した時間と成果との関連性が強くない者」といった抽象的な文言だけが入ることになる。ということは省令で決めることになる具体的業務は、上記の業務以外に広がる可能性が十分にあるということだ。
もちろん年収基準の1075万円も引き下げられる可能性もある。じつは安倍首相自身も、年収基準について昨年の通常国会の民主党の山井和則議員との質疑応答(6月16日、衆議院決算行政監視委員会)でも引き下げる可能性を否定してはいなかった。
プレジデント
案の定「みんな残業代ゼロ」へ