岸田文雄首相は4月8日に任期満了となる日本銀行の黒田総裁の後任に経済学者の植田和男氏を起用した。日銀総裁の交代は約10年ぶりであり、積年の垢落とし、安倍元首相の尻ぬぐいの仕事が待ち受けている。
安倍元首相の経済政策アベノミクスの柱として、黒田氏が主導した異次元の金融緩和は企業収益の向上や株高などにつながったが、日銀の大量の国債購入、上場投資信託(ETF)の購入や年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による株式購入の後始末、更に急激な円安や物価高等の弊害に対する対処等が植田氏の宿題になる。
日銀によると昨年9月末時点で、国債の発行残高1066兆円のうち日銀が536兆円を保有しており、保有割合は50%で、2012年末の第2次安倍内閣発足後に大規模緩和が始まる前の11%と比べて4倍超になっているそうだ。
政府は民間の運用資金を増やすため民間の国債を大量に買い入れる大規模な金融緩和を約10年の長期に亘り実行した。政府の借金である国債の約半分を日銀が買取っているが、日銀はお札を印刷すればお金は無尽蔵にあり、いくらでも買い取ることが出来る。しかし、そのお金は市中に出回り、日本全体のお金を増やすことになり、お金の価値を下げる何物でもない。
さて、ロシアのウクライナ侵攻が影響し資源の高騰が続くが、世界の中央銀行はインフレを抑えるために金利を上昇させているが、日銀はその気配はない。それでもようやく、昨年12月の決定会合で、市場金利のゆがみを修正する目的で、長期金利の変動幅をプラスマイナス0.25%から0.5%に拡大した。ただ、市場では、追加修正観測から長期金利が一時0.5%を超えるなど、日銀が金利を抑え込む副作用が出てきた。
この春、諸物価の値上がりが激しいが、その理由はロシアのウクライナ侵攻の為だとの説明が多い。しかし、アベノミクスの副作用でもあると主張する者もおり、経済素人には両者の兼ね合いはよく分からない。アベノミクス信奉者にとってウクライナ侵攻は絶好の言い訳を提供している。
しかし、悪い円安の進行やインフレによる金利上昇に追い込まれかねない状況に移行しつつあることは間違いないようで、仮に短期金利を1%引き上げただけで日銀は短期間で債務超過に陥るリスクが大きいそうで、金利上昇に対する日本経済の脆弱性は今では果てしなく大きいとのことだ。また、金利上昇は国債利払い費の増加で政府の予算を圧迫し、住宅ローン金利の上昇、株式や不動産など資産の価格下落も招くとの話だ。
一方、日銀や他の公的機関が買い取る株式は、日本株の値上げが目的であろうが、企業にとって政府は信頼に足る安定株主となり、企業努力が疎かになる恐れがある。株式は資本主義の根本だ。市場に任せておくのが正常な姿と思うが。
植田新総裁は学者で理論家だそうだ。しかし、経済学は現象の後付け説明は得意でも将来を切り開く力は無い。理論通りに動かない経済をどう立て直すか、力量が問われる。2023.02.15(犬賀 大好ー889)
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