人工知能(AI)の進歩は著しい。2015年に発表されたオックスフォード大学などの調査結果では、今後10〜20年の間に一般事務職や銀行員等の約半数の仕事が消える可能性があると示唆していた。しかし、AIの進歩は予想以上に進み、創造的な成果物を生み出るようになり、楽曲や画像、動画、プログラムのコード、文章等も作り出せるようになった。このようなAIは生成AIと称され、人間の仕事や作業をサポートするツールとして活用が期待されている。今後これまで人間が行ってきたあらゆる領域に浸透する勢いである。
7月20日、米国映画の都ハリウッドにおけるストライキは日々、激しさを増しているそうだ。この背景にあるのはAIの存在だ。AIが脚本を書くなど、人工知能の進歩によって脚本家の仕事が減らないようにする仕組みや、脚本家のアイデアがAIの生成した作品の基礎として使われる場合の対策が必要だと、組合はストライキを起こしているのだ。実際、このストライキ中に配信されたサスペンス・スリラー 映画『シークレット・インベージョン』のオープニング映像をAIが生成していたことが発覚し、火に油を注ぐことになったのだそうだ。
AIは文章作成の場合、これまで人間が生み出した膨大な知識を記憶し、またあらゆる文脈を記憶し、これらの知識を文脈で組み合わせるのであろうが、出来上がった文章の土台はどこかに存在するはずだ。専門家は、生成AIの欠点はAIは『意味』を理解しないと指摘し、人間の持つ、数と量を対応付ける直観が欠如していると指摘しているが、気休めの感である。AIの欠点が分かれば当然これを乗り越えるようなAIも開発されるのではないだろうか。
しかし、これまでに無い知識から導き出されるような新たな概念は生成AIからでも生み出されないだろう。例えば生命誕生の謎とか宇宙誕生となったビックバン以前の謎等に関する答えは絶対に出てこないだろう。兎も角、ハリウッドのストライキの行きつく先は不明だが、AIに対する規制は国家的な規模で広がっている。
今年6月14日、生成AIを含む包括的なAIの規制案である「AI規則案」が、欧州議会の本会議において賛成多数で採択された。欧州委員会は2年前にも規制案を発表していたが、生成AIの急激な進化と普及を受け、生成AIに関する考え方や要求事項が追加で盛り込まれた形となっている。施行は2024年以降となる見込みだが、すでにAIは私たちの生活に密接に組み込まれており、イタチゴッコの感である。
振り返って我が日本では、生成AIどころかマイナンバーカードの普及ですったもんだしており、デジタル社会から大きく後れを取っている。生成AIが社会問題になるのは当分先のような気がする。2023.07.26(犬賀 大好ー933)