菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

抑えきれない心の先の杖。 『システム・クラッシャー』

2024年05月21日 07時00分03秒 | 映画(公開映画)

で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2359回。


「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」

 

 

 

 

 

『システム・クラッシャー』

 

 

DVで抱えたトラウマにより問題行動を起こし続ける9歳の少女ベニーが熱心な非暴力トレーナーと出会うドラマ。

ベルリン国際映画祭の銀熊賞など世界各地で数々の賞に選ばれ、高評価を得た。

システム・クラッシャー : 作品情報 - 映画.com

 

 

原題は、『SYSTEMSPRENGER』。
英語題は、『SYSTEM CRASHER』。
『攻撃的問題児』。

別題(EUフィルムデーズ2021)は、『システム・クラッシャー 家に帰りたい』。

<システム・クラッシャー>は、施設や学校、里親などで暴力行動によりトラブルを起こし続ける攻撃的な子どものことを指す隠語。


製作年:2019
製作国:ドイツ
上映時間:125分

 

配給:クレプスキュール フィルム

 

 

物語。

現代ドイツ。
かつて父親から受けたトラウマを抱え、感情の爆発を抑えられない9歳の少女ベニーは、里親やグループホーム、特別支援学級など行く先々で問題を起こしていた。
ベニーは母と暮らしたいと願うが、母はベニーに愛情を持ちながらもほかの二人の子供を抱え、シングルマザーとして、ベニーを抱えきれずにいた。
養母の元も逃げ出し、また施設からも匙を投げられたベニーを児童養護担当のバファネは一時預かり施設になんとか入れ、学校へは行かせようと通学付添人としてミヒャを彼女につける。
施設のみなは、ベニーをもてあまし、ついにケニアの矯正施設に送る案が出る。
その前にできることがあるのではと、本来は非暴力トレーナーであるミヒャが彼女の矯正に取り組むことを申し出る。

 

主演は、ヘレナ・ゼンゲル。
本作出演後にトム・ハンクス主演の『この茫漠たる荒野で』でハリウッドデビューも果たした。
2020年のドイツ映画賞にて、最年少での主演女優賞を受賞。多くの賞にノミネートされた。

共演は、『西部戦線異状なし』のアルブレヒト・シュッフ。

監督・脚本は、本作が長編デビュー作となるノラ・フィングシャイト。
ホームレスのための避難所生活を描いたドキュメンタリーの撮影中、<システム・クラッシャー>と呼ばれる子供がいることを知ったことから映画化を構想したそう。
彼女も次作サンドラ・ブロック主演の『消えない罪』でハリウッドデビューを果たしており、こちらも高い評価を得ている。

 

 

スタッフ。

監督:ノラ・フィングシャイト
製作:ペーター・ハートウィヒ、ヤーコプ・D・ヴァイデマン、ヨナス・ヴァイデマン
脚本:ノラ・フィングシャイト
撮影:ユヌス・ロイ・イマー
編集:ステファン・ベッチンガー、ジュリア・コヴァレンコ、イマン・ラヒミ
音楽:ジョン・ギュルトラー

 

 


出演。

ヘレナ・ゼンゲル (ベニー/ベルナデット・クラース)

アルブレヒト・シュッフ (ミヒャ/ミヒャエル・ヘラー)
ガブリエラ・マリア・シュマイデ (バファネ/児童養護職員)
リーザ・ハークマイスター (ビアンカ・クラース/母)
ブルーノ・ティール (レオ・クラース/弟)
イーダ・ゴーツ (アリシア・クラース/妹)

テドロス・テクレプラン (エリザヘル・ロバート)
メラニー・シュトラオプ (ショーネマン/医師)
ヴィクトリア・トラウトマンスドルフ (シルヴィア/里親)
マリアム・ザリー  (エリ・ヘラー/ミヒャの妻)

 

 

 

『システム・クラッシャー』を観賞。
現代ドイツ、攻撃的問題児として施設でも匙を投げられる9歳の少女ベニーが熱心な非暴力トレーナーと出会うドラマ。ベルリン国際映画祭で銀熊賞をはじめ、ドイツ映画賞で最優秀作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、助演女優賞、脚本賞、編集賞、音響賞を受賞するなど、世界各地で数々の賞に輝いた。
タイトルの<システム・クラッシャー>は、施設や学校、里親などで暴力行動によりトラブルを起こし続ける攻撃的な子どものことを指す隠語だそうです。
こりゃ、きつそうな話だと思うでしょうが、なんと、これが編集の店舗とキャストによって、するりと見れてしまう。いや、きついのはきついのですが、DVなどのトラウマといった過去を掘り下げず、彼女の現在の状況にフォーカスを当てていくので、アジア的なウェットさで浸さず、ドライに貫いていく。そして、大人なドラマになっていて、現実につなげていく。
つまり、ベニーという少女の物語ではあるが、こういった問題行動をとってしまう児童の一例で、それを取り巻く状況を描いている。
気づかされるのは、児童を養うのは社会ではあるが、その大人の社会を支える大人もまた支えられていなければ、その先にも手が届ききらないということ。
出てくる他の子供たちの姿とその先にも目を向けて見る。
その大人たちの姿の清濁と希望と絶望の繰り返しの姿から、今作のベニーの先を想像する。
なんといっても、ヘレナ・ゼンゲルが世界へ怒りを爆発させ、見る者の心もしちゃっかめっちゃかにする。
ドイツ映画賞では最年少10歳で主演女優賞を受賞し、すぐにトム・ハンクス主演の『この茫漠たる荒野で』でハリウッドデビューも果たしている。彼女の多面的な表情が魅力的なのですが、ただ感情に任せるのではなく賢さもあり、様々な状況において、それぞれに違う爆発があり、それを彼女自身も持て余している様さえも見せ、圧倒的な演技力(物語と人物への理解)に仰け反ります。その体当たり具合もまるでドキュメンタリーで心配になるほどですが、ドイツは子供を早い段階で大人として扱う社会制度と文化の違いがあるので、そういう多様な考え方の違いも見せ、児童向けだけにはしていない送り手も大人で、見る側も大人をであることを見すえているのが伝わってきます。
その大人の部分を4人の大人で描いて見せます。非暴力トレーナーで通学介添人役のアルブレヒト・シュッフが主に見せる。彼の揺れ具合がこちらにも波として伝わってきます。ですが、実は、彼を呼ぶ児童養護職員役のガブリエラ・マリア・シュマイデの多面性がさらに深みを与えている。それに対応する二人の母役リーザ・ハークマイスターとマリアム・ザリーの存在も見事。脇の人々の見せ方が非常に繊細で、感嘆がもれます。あるシーンで喜ぶベニーのよこで、それがまき散らしたごみを片付ける店員をしっかり見せる演出は冷静で逆に心に刺さります。
もうね、脚本の丁寧さに唸ります。
そして、この状況を伝えたいという演出の抑制ぶりに拍手を送りたい。監督・脚本はドキュメンタリーも手掛けるノラ・フィングシャイトで、彼女も次作サンドラ・ブロック主演の『消えない罪』でアメリカデビューを果たしており、こちらも高い評価を得ている。新作も完成済で今年公開予定。
子供目線と大人目線をカットごとにうまく切り替えて滑らかに見せる撮影も的確かつ、映画的瞬間が何度も訪れる。
音楽もさりげなく、甘さ控えめながら、状況に寄り添います。あのラストの痕で流れる最後のニーナ・シモンの名曲(予告編でも使用)でノックアウトされます。タイトル出しからエンドクレジットまで徹底的につくりこまれている。これぞ、フィクションの力と痺れます。
映画を見る前、見ている間はもちろん、映画が終わって現実にどう届くまで考え抜かれている。
この映画にこそ、「あなたの物語になる」とコピーをつけたくなる。
自問する、答えはないが、行動はできる。
ある意味では、『悪は存在しない』(同じくベルリンの銀熊賞受賞)、『胸騒ぎ』、『またヴィンセントは襲われる』『エドガルド・モルターラ』にもつながる暴力と教育の意味を考えさせられ、同時期公開の映画を並べて観る意味が深まります。
転ばぬ先の杖と転んだ後の杖もいる。
それでもそれでもそれでも手を伸ばす一本。

 

Systemsprenger (2019) Film-information und Trailer | KinoCheck

ノラ・フィングシャイト『システム・クラッシャー 家に帰りたい』システムなんかくそくらえ!|KnightsofOdessa

システム・クラッシャー』日本公開決定&ティーザーポスター&特報解禁! - SCREEN ONLINE(スクリーンオンライン)

 

 

受賞歴。

2019年のベルリン国際映画祭にて、アルフレード・バウアー賞(銀熊賞)(ノラ・フィングシャイト)とベルリン・モルゲンポスト紙審査員賞を受賞。
2019年のエムデン国際映画祭にて、最優秀作品賞を受賞。
2019年のヨーロッパ映画賞アカデミー賞にて、最優秀作曲賞を受賞。
2020年のドイツ映画賞にて、最優秀作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、助演女優賞(ガブリエラ・マリア・シュマイデ)、脚本賞、編集賞、音響賞を受賞。

そのほか、20以上の賞を受賞。

 

 

 

ノラ・フィングシャイトは次回作『The Outrun』がアメリカで2024年に公開予定。

 

主題歌は、ニーナ・シモンの名曲『Ain’t Got No, I Got Life』。

 

 

 

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