で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2192回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『崖上のスパイ』
昭和11年の日本支配下の満州、四名の中国人スパイが特命任務でハルピンを目指すアクション・サスペンス。
監督は、『HERO』、『SHADOW/影武者』のチャン・イーモウ。
出演は、 『オペレーション:レッド・シー』のチャン・イー、『ゴッドスレイヤー 神殺しの剣』のユー・ホーウェイ、『桃(タオ)さんのしあわせ』のチン・ハイルー、『 見えない目撃者』のチュウ・ヤーウェン、『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』のリウ・ハオツン。
物語。
1934年の満州国。
輸送機から雪深き山中に4つのパラシュートが降下した。
リーダーの張(チャン)、若手の趙(チュー)、女性スパイの王郁(ワン・ユー)と小蘭(シャオラン)はソ連のからの共産党員の中国人スパイで、ハルピンでの特命任務<ウートラ(烏特拉))作戦>のために潜入したのだった。
チャンとワン・ユーは夫婦で、任務とは別にハルピンで生き別れた娘と息子を救い出そうとしていた。
だが、彼らは一班(チャンとシャオラン)と二班(チューとワン・ユー)に分かれ、ハルピンに向かうことに。
しかし、特務班は内通者によって潜入の情報をつかんでいた。
特務班はスパイたちの受け入れ班を殺し、彼らに入れ替わり、ふた班を待ち構えていた。
特務班周(ジョウ)の対応は二班で、彼らの任務を暴くという命令を受けていた。
原作:チュアン・ヨンシェン
脚本:チャン・イーモウ、チュアン・ヨンシェン
制作脚本:パン・ユィラン
出演
チャン・イー (チャン・シエンチェン(張憲臣))
リウ・ハオツン (シャオラン(小蘭))
チュウ・ヤーウェン (チュー・リャン(楚良))
チン・ハイルー/アマンダ・チン (ワン・ユー(王郁))
ユー・ホーウェイ (ジョウ・イー(周乙))
ニー・ターホン (ガオ科長)
ユー・アイレイ (ジン(金)・ジーダー)
リー・ナイウェン (ミン・ルー)
フェイ・ファン
ライ・チァイン
スタッフ。
撮影:チャオ・シャオティン
プロダクションデザイン:リン・ムー
編集:リー・ヨングィ
音楽:チョ・ヨンウク
『崖上のスパイ』を鑑賞。
1934年満州、夫婦中国人スパイが特命任務でハルピンを目指すアクション・サスペンス。
描写はややリアル寄りで、物語展開はドラマチックという昭和初期(昭和9年)の日本支配下の満州を舞台にしたスパイもの。ではありますが、日本人は台詞にしか出てきません。ヘンテコ日本語も出てきません。日本国が敵ですが、直接戦うのは中国人による秘密警察(特務班)で全員中国人なのでズッコケることがない。原作小説あるのですが難しい思想部分などをかなり省いているようで、スパイ活動だけに焦点を当てています。
まさに巨匠チャン・イーモウの美学で貫かれた、クラシカルな内容を現代映画の方法でつくったというところですかね。この雪に覆われた画面とお金がかかった美術がきちんとしていて、いいんですよ。
全体的にずっとサスペンスとアクションで埋まっているので飽きさせずに2時間走り切ります。
防寒で顔を隠していたり、時代性とスパイということで目立たない外見、漢字とルビでの名前の表記のせいで、なかなか人物相関が頭に入りにくいですが、二つの班と敵の特務がいると覚えておけば、編集の技で混乱はないし、40分過ぎた辺りで名前と顔が一致してきます。
そうそう、アクションも武侠系ではないのでアクションにスローはかからないリアル系になってます。戦えばダメージ負いますしね。
チャン・イーモウは現在は中国政府寄りの作家なので、プロパガンダ色は今作もあるが、そこまで強くないので見やすい。
主要キャストは、敵味方合わせて10名程度。リーダー役のチャン・イーは鋭い大泉洋似でアクション含め体の動きがいい。彼とコンビを組む『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』のリウ・ハオツンはチャン・イーモウ好みの童顔女優で可憐な華。リーダーの妻役チン・ハイルーはアクションの方で見せ場あり。芝居的には画面に奉仕する感じですが、時代と状況の雰囲気を伝えてくれます。
雪のスパイものとして、雪と防寒具が彼らの心と戦争の時代を象徴として目に見せる。雪も本物と人工降雪機でメチャクチャちゃんとしてて、ものごっつう寒そう。これ大事。
いっちゃえば、A級の美学と制作体制でつくられた、まっとうなB級ジャンルモノ。
ドラマは薄めで障害突破もベタですし、ご都合もちょいありますが、美学で貫かれているので、瑕疵になってないのが強い。
それは、強い目的のための決断の鋭さと切なさがあるから。
音楽も豪勢でいい。
ガラスの割れ方や、物の壊れ方、傷などの美術が本当に素晴らしい。
クラシックカーでのちゃんとしたカーアクションなんてそうそう見られるものじゃありませんぜ。
ラストも含めて、極上のB級の味わい。
寒空の下、ポケットの中で握る銃作。
おまけ。
原題は、『懸崖之上』。
『崖の上にぶら下がる』。
英語題は、『CLIFF WALKERS』。
『断崖を歩く者たち』。
邦題の読みは「がいじょうのすぱい」で、「がけうえのすぱい」ではないようです。
2021年の作品。
製作国:中国
上映時間:120分
映倫:PG12
配給:アルバトロス・フィルム
ややネタバレ。
実際の冬を中心に、撮影は178日行われた。
人工降雪機で雪を降らしまくったそうですよ。
そのおかげで、『ノースマン』などハリウッド系の泡による冷えない人工雪と違う質感が素晴らしい。
ネタバレ。
ウートラはロシア語で「夜明け」のこと。
一班が列車で分断されたとき、小蘭が撃っても逃れるのは、けっこうご都合よね。雪で銃声が聞こえなかったんだろうけど。
クリップでの手錠外し逃げはちょっと古典的過ぎやしないか。
それこそ、周が手助けするとか。逃げる時には手伝ってるんだから。
ありがちだが、敵は弾一発で死に、主人公側は何発か食らっても生きてるんだよね。まぁ、ダメージ負うし、死にもするから全然許容範囲だけど。